第百八姉 番外編『ノエルさんとお出かけ』
皆様、ハッピーメリークリスマスイブでございます。
今回の番外編はヒロくんとノエルさんのコンビという、ありそうでなかったお話です。
「あれ、ノエルさん。どっか出かけるんですか?」
「ああ。私は街にいくが、お前達はどうする?」
「・・・一緒にいこうかな。最近ゴロゴロしてばっかだったし。」
「ムラサキは?」
「昼寝してます。起こすのもかわいそうなんで、そっとしておきましょう。」
「起きたら起きたでぎゃーぎゃーうるさいしな。もう出れるか?」
「はい、いけます。あ、ちょっと待って。さきねぇに伝言残しときます。」
ちっちゃな黒板にチョークで伝言を残す。
『ノエルさんと街にいってきます。おやつはレンジでチン!して食べてね♪ないけど(笑)』と・・・
「OKです。」
「では、いこうか。」
「せっかくだし、たまには歩いていきません?」
「ああ、いいぞ。急ぎではないしな。」
珍しくノエルさんとおでかけすることになった。
ノエルさんと二人で森を歩く。
「二人だけで街までいくなんていつぶりでしょうね?」
「いつもムラサキが一緒だからな。ひょっとしたら初めてか?」
「あーそうかも。」
「しかし、二人がこの大陸に来て一年も経っていないというのに、ずいぶん長いこと一緒に生活している気がするな。もちろん気のせいなんだが。」
「あーでもそれわかります!昔からずっと一緒に暮らしてる感覚に襲われますね。」
「だろ?相性が良かったんだな。」
「ノエルさんにはお世話になりっぱなしですいません。いつもありがとうございます。」
「そう改まるな。いつもいってるだろう?二人がいてくれて毎日が楽しいと。こちらこそ感謝したいくらいだ。」
「そんな。こちらこそですよ。」
「・・・堂々巡りだな。どちらも助かっているのだから、それでいいのではないか?」
「そうですね。」
「「あはははははは!」」
そんなこんなで森を抜けると、目の前に青い空と緑の草原が広がる。
異世界だからなのか空気が澄んでいるからなのか、景色がこう、鮮やかなんだよな。
「そういえばヒイロ、お金は足りてるのか?いるか?」
「あははは、大丈夫ですよ。これでもアルゼンで期待の大型新人なんですよ?」
「わかってはいるが・・・あ、じゃあ武器や防具のほうがいいか?ガイゼルに言って用意させるぞ?」
ガイゼルって・・・確か冒険者ギルドのめっちゃ偉い人だよな。
怖いよ。何送られてくんの。
「と、とりあえず今のままで大丈夫ですよ?そんな心配しないでください。」
「そ、そうか・・・」
ノエルさんの顔が見事に(´・ω・`)としている。
こ、これは何かもらったほうがいいのだろうか。おばあちゃんだし。
「あ!そういえば「なんだなんだなんだなんだ!?何がほしいんだ!?」
すごい食いつき!
「えっと、その~・・・そう!さきねぇの帽子というか兜というか。頭部を守れるものを何かほしいんですよ。普通の兜とか帽子だと『ダサいし髪がボサボサになる!』って言ってそのままなんで。危ないですよね?・・・ってなんですか?」
ノエルさんが呆れた顔をしている。
なんか変なこと言ったか?
「・・・いや、お前はどんな時でもムラサキが一番なんだな。別にいいんだが。」
「まぁ趣味というか生きがいというか。『姉は、人生・・・かな。キリッ!』って感じです。」
「・・・・・・まぁお前がそれでいいんなら、それでいいんだろう。後で魔法袋の中を整理して、それっぽい物を探してみよう。」
「お願いします。」
ゴロゴロゴロゴロ・・・
お、この音は。
「レッドダンゴムシですね。一匹か。」
「任せる。」
「お任せあれ。」
転がってきたレッドダンゴムシを冷静に足裏で踏みつける。
そのままリフティングを開始する。
「よっ、ほっ、はっ、とっ!」
「おぉ~!」パチパチ
「からの~、必殺!地を這うハヤブサシュート!」
蹴り上げられたレッドダンゴムシが木にぶつかり、動かなくなる。
「ヒイロもずいぶん動きが良くなったな。」
「そりゃあノエルさんに鍛えてもらってますから。」
「最初の頃は油断して一撃もらってたりしてたのにな。」
「それは忘れてください!恥ずかしいので!」
ニヤニヤしながら話すノエルさんの言葉に顔が赤くなる俺。
親戚のおばさんの『ちっちゃい頃はおしめ替えたり一緒にお風呂はいったりしたのよぉ?』的な恥ずかしさがあるぜ。
そんな恥ずかし会話をしながらアルゼンに到着する。
門番さんたちは最敬礼だ。
「「「どうぞお通りください!」」」
「ん。」「こんにちわー。みなさんお疲れ様でーす。」
軽く挨拶を交わしながら街中に入る。
「そういえば、何の用できたんですか?」
「ん?ああ、市場で果物を探しにな。オリンジとルンゴとレモヌが少なくなってきてるのでな。特にレモヌは料理にも使うからな。体にもいいし必須アイテムだ。」
「なるほど。でもそんなの、俺にいってもらえれば買ってきたのに。」
「・・・じゃあ聞くが、ヒイロはこの大陸の果物の良し悪しを見ただけで判断できるのか?」
「・・・ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。」
「うむ!」
そんなこんなで二人で市場を歩いていく。
・・・絶世の美少幼女と親しげに会話しながら並んで歩くというこの状況を、他人が見たらどう思うんだろうか。
『師匠と弟子』?初見じゃ無理だろ。
『恋人同士』?ないな。
まぁ『兄と妹』だろうな。
実際は『義祖母ちゃんと義孫』なんだが。
その時、歩いてきた男とノエルさんがドンッとぶつかる。
「おい、待てガキ!」
その言葉にキョロキョロあたりを見渡すも、該当する人はいっぱいいるな。
「私達じゃないな。」
「ですね。」
そのまま歩き出す俺達。
「おい、待てっていってんだよそこの親子!」
またもキョロキョロあたりを見渡す。
「もちろん俺達じゃないですね。」
「だな。」
そのまま歩き出す俺達。
「だから待てや!」
グイッと肩を掴まれる。
「え、なんですか?」
「お前の娘が俺にぶつかったせいで服が汚れただろうが!弁償しろや弁償をよぅ!?」
その男をよく見ると、服にちょっとした染みが出来ている。
なんか全身きっつい黄色のスーツみたいですごいダサい。
だが、今重要なのはそこじゃない。
「「・・・むすめ?」」
「おう、そこのお前のガキだ。父親ならちゃんと弁償しろや。俺も悪魔じゃない。10万パルで許してやる。」
「「・・・・・・ちちおや?」」
「おう。親子だろうがお前ら。」
「「・・・・・・・・・」」
ま、まさか親子扱いされるとは。しかも俺が父親でノエルさんが子供・・・
確かに俺は実年齢より上に見られることが多いし、ノエルさんも大人びた小学生と言われても納得してしまいそうな可憐さではあるが。
こんなかわいい子供がいたら、パパ、なんでも買ってあげちゃうぞーぅ!
「・・・・・・・・・そうか。それは悪いことをしたな。」
そんな俺のアホな考えとは裏腹に『地獄の釜を開いたらこんな感じなんじゃないか』みたいな恐ろしい声が響く。
「キャァァァァァ!!」「逃げろー!!巻き込まれるぞー!!」「助けてぇぇぇ!!」「精霊王様!ご加護を!!」
ノエルさんの恐ろしさを知っている市場の人々が悲鳴をあげ逃げ出していく。
男は突然の出来事に驚きを隠せないでいる。
「な、なんだ!?何が起こったんだ!?」
「御詫びにお前の服の汚れを消してやろう・・・お前の命ごとな!!」
「お、落ち着いてノエルさん!市場はやばいっす!ここで暴れて市場出禁はやばいっす!」
「離せヒイロ!こいつ、殺せない!」
羽交い絞めにしているノエルさんから炎の魔力が零れだす。熱い!熱いよ!
「そこのヤクザのおっさん早く逃げろ!死ぬぞ!?」
「ヒ、ヒィィィ!?」
「は~な~せ~!この私を!よりによって娘扱いなんて!絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉ!」
「「イヤァァァァァァ!?」」
この後、ヤクザのおっさんとなぜか俺が一緒にDOGEZAをして許しを乞うた結果、なんとか市場は焼け野原にならずに済んだ。
ヤクザのおっさんは最近街に来たばかりでノエルさんの存在を知らなかったらしい。
俺と握手をし、泣きながらもう二度と人に迷惑をかけるような行為はしないという約束を交わしてくれた。
一人の男の人生を救ったという、とても有意義な一日だった。
もちろん家に帰った後、さきねぇを置いて勝手に二人で街にいったことに大激怒のさきねぇに、本日二度目のDOGEZAをする俺がいたのは言うまでもない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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