第百四姉「鬼才現る!素晴らしい!ノーベル平和賞は確実ね!」
新章ですが、今回は今までとちょっと毛色が違います。
鬱・無駄シリアスを排除しているあねおれ初の『なんちゃってシリアスファンタジー風味』です。
もちろん風味なので『カニチャーハン頼んだらカニカマ大盛りだった!』的な感じです。
たまにはこういうのもいい、よね?
全四話と短めなので、よろしければお付き合いください。
よくわからない、ふわふわした感覚が俺を支配している。
ああ、これは夢だな。ふとそう思った。
夢の中で『あ、これ夢だ』って気づく時あるじゃない?そんな感じ。
そう理解したら余裕が出てきた。
辺りを見渡すと、ここは・・・アルゼン郊外の荒野か?
横を向くと、さきねぇがいた。
夢の中までさきねぇの隣とか、俺どんだけさきねぇのこと好きやねん。
そのさきねぇは荒野の向こうをじっと見つめている。
何見てるんだろ。
「さきねぇ・・・勝てると思う?」
夢の中の俺がさきねぇに問いかける。
勝てると思う?なんかと戦ってる設定なのか?
「勝てるかどうかじゃなくて、勝つのよ。」
言い切り、笑顔を見せるさきねぇ。
よくわかんないけど、今はかなりのピンチで、相変わらずさきねぇがかっこかわいいことだけはわかった。
すると、さきねぇの見つめていた方向に人影が見えた。
一人二人じゃない。数十人か、数百人か、それとも数千か。
なんだあれ?
「来たわね。・・・お前ら!準備はいいか!」
「「「「「「「「「「おおぉぉぉぉ!」」」」」」」」」」
さきねぇがそう呟くと、なんかの準備ができたらしいのと、大勢の声が聞こえた。
うお、よく見るとこっちにも人がいっぱいいる。
「全員、抜刀!」
その掛け声とともに、周りの人々が武器を構える。
そして。
「・・・・・・突撃ぃ!!」
「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」
クポー、クポー。
パチッと目を開ける。
んん~っとベッドの上で伸びをする。
朝か。今日も元気にモグバード(命名さきねぇ)が鳴いてるぜ。
そういや、さっきまで夢見てたけど、どんな夢だったかな?
まぁいいか。
そんな感じで俺の運命の二日間が始まった。
いつもどおりさきねぇを起こし、髪を梳かす。
さて、朝ごはんは何にしましょうかね。
「さきねぇ~、朝ごはん何食べたい~?」
「ラーメンとチャーハンと餃子ー!」
「朝からラーハン餃子コンボとか鬼すぎるわ!胃がもたれる!」
「じゃあハイジのやつー。」
「・・・まぁなんとかなるか。あいよー。」
ハイジのやつとはパンの上にトロットロのチーズがかかったアレである。
今日はノエルさんがいないため、俺が料理をする。
ノエルさんは『ちょっと野暮用』というメモを残し、数日前に出て行った。
いつもは用件と行き先を告げてからでかけるのに、珍しいこともあったもんだ。
「おまっと~。」
「うっひょーうまそー!いただきまんとひひ!」
「普通に生きてたらまず聞かないなそれ。」
「レアな体験が出来たんだからラッキーじゃない?」
そんなことをいいつつチーズパン(っていうかむしろパンチーズ)にかぶりつくさきねぇ。
自分で作っておきながらすごい良いにおいである。
俺もいただくとしよう。
「ごちそうさまー」「おそまつさまでした。」
朝食を食べ終わり、洗いものタイムに入る。
鼻歌を口ずさみながら食器を洗っていると、さきねぇがいる方向から声が。
「あー、久しぶりに仕事でもするー?」
「おーいいね。いくか。」
なんとも人生をなめた発言である。
その辺の冒険者たちに聞かれたら、めっちゃガンつけられることだろう。
ここ一週間、ずっと家でゴロゴロしてたり昼寝してたり散歩してたりだからな。
もちろん特訓自体は続けているけども。
「っし、洗い物終了っと。じゃあ準備してアルゼンまでいくべ。」
「おっけー。」
準備といっても着替えてローブを羽織って魔法袋を持って終わり。簡単。
いつも魔法袋内の食料や道具の在庫チェックだけは欠かさないので、今更確認する必要もなし。
「しっかし、エルエルがいないから街まで歩くのめんどうね。」
「馬ゴーレム使うの慣れちゃったからね。だがここは発想の転換だよさきねぇ。」
「ほほう?聞きましょうか。」
「ノエルさんがいないから二人きり。街まで一時間。これをデートと考えれば・・・?」
「鬼才現る!素晴らしい!ノーベル平和賞は確実ね!」
やっすいなーノーベルさんの価値。
「つーことでまったりいきますか。」
「おー!」
二人仲良く、手を繋いでアルゼンに向かうのだった。
「ほんとなんですよ!この目で見ました!」
「・・・とはいってもねぇ~?」
ギルドにはいると騒ぎ声が耳に入る。
またケンカ?と思ったが、ちょっと違うっぽいな。声色が真剣というか、あせっている。
なにより、その相手は。
「ちょっとスー、声でかいわよ?あ、相手はマリすけか。ならよし。」
「なんで私相手だったら大声でもいいんですか?おかしいですよね?」
後輩(実は向こうのほうが冒険者暦は長いけど)冒険者のスレイとマリーシアさんだった。
「あ、ムラサキさん!それにヒイロさんも!聞いてください!嘘じゃないんです!信じてください!」
「おーけいわかった。とりあえず内容を聞かなくちゃ何もわからん。」
「は、はい。実は昨日から西にある荒野で魔物狩りをしていたんですよ。そしたら・・・スケルトンがいたんです!」
「「・・・はぁ。」」」
さきねぇと俺は気の抜けた声を出す。
スケルトン。
RPGをやったことがあれば誰でも知っているであろう魔物だ。
生ける屍っていうか歩く骨人間。いわゆる一つのアンデッドだ。
だが、アンデッドというのは暗くじめじめしたところに出現する。
ダンジョンだったり洞窟だったり深い森の中だったり。
西の荒野は日当たりもいいし、スケルトンが出るとは思えないな。
「まぁ荒野に七人の用心棒のスケルトンがいてもいいんじゃない?どこの世界にも変わり者はいるんだし。」
「そうよね~。」
チラッとさきねぇを見ると、さきねぇはマリーシアさんを見ていた。
あんただよ。あんたが一番だよ。
「それだけじゃないんです!スケルトンがいっぱい群れていたんです!」
「・・・群れて?どれくらい?」
「いっぱいです!」
「「・・・・・・」」
いや、スレイは悪くない。悪いのはこの世界の教育水準だ。
学校に行って勉強できるような裕福な家庭の子供が冒険者になることは少ない。
ギルド職員ですら冒険者を引退後、稼いだお金で学校に通った人間も多いとのことだ。
つまり、大抵の冒険者は文字の読み書きや数の計算などに弱い。
スレイの『いっぱい!』も致し方ないのだ。
問題は、その数が十体なのか百体なのか千体なのかだが・・・
「スレイ、十よりは多かったか?」
「えっと、十よりは多いと思います。」
「なるほど・・・」
「ヒイロさんはどう思います?アルゼン荒野にアンデッドの群れなんて聞いたことありませんし、さすがにそれはないですよねぇ?」
マリーシアさんの言い分ももっともだ。
が、俺には気がかりなことがある。前例がないわけではないのだ。
『アルゼン近くの荒野』に『突如アンデッドが大量発生』し『大きな戦いになった』ことが一度だけある。
大戦時にノエルさんがアルゴスさんたちを助けたという『アルゼン荒野の戦い』だ。(第二十一姉・第二十六姉参照)
万が一、スレイのいうことが事実であれば、大変なことになる。
「・・・マリーシアさん、ラムサスさんは今どこに?」
「え?し、支部長はギルド会議で王都にいっていて、今は・・・」
ノエルさんといい、タイミングが悪いな。
「じゃあ、ガルダさんは?」
「副支部長は支部長代理として支部長室でお仕事をしてますけども。」
「なら、ガルダさんに取り次いでもらえませんか?お話したいことがあるって。」
「わ、わかりました。」
困惑した表情のマリーシアさん。
「ヒイロさん!信じてくれるんですね!」
「まぁな。お前がそんなくだらない嘘をつくとは思えんし、そもそもメリットがないからな。」
「あ、ありがとうございます!」
そんな嬉しそうな顔すんじゃねぇよ後輩。こっちまで嬉しくなっちまうだろうがよぃ。
「では、こちらへ。」
「あいよ~。」「スレイもいくぞ。」
「はい!」
こうして、四人で支部長室へと向かったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
アルゼンに不吉な影が忍び寄る。立ち上がる初月姉弟。その時、あの兄妹が応援に駆けつける!
次回!「うるさいわねーバリカンで毛ぇむしりとるわよ?」!
キミは、刻の涙を見る・・・




