精霊の誕生
「もう二度と貴方の顔も見たくありませんし、声も聞きたくありません。貴方も私がお嫌いなようですから、もうお呼びにならないで下さいね?私これでもとても忙しいので」
ティファと初めて対面した日。私は彼女のケーキを地面に叩きつけ足で踏み潰したのだ。
そうだな。今なら分かるぞ。
お前よくあの時、文句を言うだけで我慢したな?
お前ならグーパンチからのハイキックでも私は驚いたりしない。だからな? 分かったんだ。
お前はあの時、本当に深く傷ついたのだな。
初めてお前を見た時から、今迄感じた事がないような想いが私の中で膨らんで、私はかなり狼狽えたのだ。
お前が私に作ってくれたあのケーキを見た瞬間。どうしようもなく嫌な気持ちになって、叩きつけないと気が済まなかった。
後に無理矢理口に放り込まれて分かったぞ。
お前あのケーキに変な術をかけただろう?
あれは、私の自我を呼び起すのに作用したらしいぞ?
あの後、私は情緒不安定に陥ったからな?
ティファ。
お前は本当に面白い女だった。
あれ以来結局逃げ回られて殆どまともに話す事は叶わなかったが、嵐の様に私達を巻き込んで、あっという間に過ぎ去ってしまったからな。
あの頃、私は全く周りが見えていなかったな。
だが、それぐらいで丁度良かったと今では思っている。
お前は迷惑だったかも知れないが、お前のお陰で被害は最小限で済んだのだ。感謝している。
あのまま私が皇帝になっていたら、今頃この国は失くなっていただろうからな。
あれは、なんだ?
空に、花が咲いている。
ああ。あれはデズロか・・・。
夜にあの花が咲いたら、もっと綺麗だろうな。
[ナシェス]
ナシェス? 私の名前はそんな名じゃないぞ?
私はチェシャだ。
[ナシェス。ありがとう。貴方のお陰で準備が整った。さぁ、それを解放してあげて]
これは、夢だろうか?
「・・・・・ティファ?」
そんな筈はない。
彼女は今サウジスカルで大樹の生まれ変わりと共にいる。
[約束を果たしに来た。ナシェス。貴方はまだ人としてやるべき事がある。だから、私がここにいるわ]
え?今、なんと言った?
「貴女は、誰だ?」
[私? わたしはーーーーーー]
「チェシャ!!」
「・・・・・・・・メリル。私は、人間のままか?」
「・・・みたい。朝、大きな地震が起きてね? リディが血相を変えて部屋に飛び込んで来たの。それで、ここまで一足飛びで駆けつけた訳だけど・・・・」
ここは何処だ?
辺り一面水晶が立ち並んでいるが?
空まで届きそうな勢いだな?
「兄様!! 」
「・・・・精霊になり損ねた様だな。と、いうか。力を奪われた」
「「「は?」」」
だが、彼女は一体?
ティファに見えたのは、見間違いだったのだろうか?
「外はどうなった? 地震が起きたのだろう?」
「それが、物凄い勢いで地面から木の根やら岩やら山やらが生え、泉なんて湧かない場所に泉が出来上がり。つまり、カスバールの地層やら何やら一気に変わっちゃったみたいですわ。前の地形の原型を全くとどめていないのです」
「そうか。では、精霊は予定通り産まれたのだろうな」
「え? そうなんすか?」
「恐らくこれが、カスバール本来の姿なのだろう。精霊が戻り、その姿も元に戻ったのだ。これは暫く混乱が続くな」
あ、なんだ?
身体に、力が入らないぞ?
「チェシャ!!」
「兄様!!」
ギュルルルルルルーーーーッ
「「「・・・・・・・・・・・」」」
あ。人の感覚が戻ったのだな。
しまった。このままだと、餓死するかも知れないぞ?
「・・・・取り敢えず。一度戻りましょうか? 一応ここに魔法防壁を貼っておきますので」
「戻るのか? それは、少し困るぞ」
「え? 何でよ?」
それはだな。
まぁ、色々私なりに覚悟を決めて来たのだ。
それなのに、精霊になれませんでしたとスゴスゴ帰るのかと思うと、とても・・・・。
「もしかして。父様と顔を合わせ辛いのか?」
「・・・・・あの人、泣いていただろう?振り切って来たのかリディ」
「振り切ったというか。大きな地震が起こったので、そのままメリルの所まで行った。あの人に何か言ったのか?」
う〜ん。
もう最期だからと色々言ったな?
まぁ、済んでしまったものは仕方ない。
戻るか!! 私は細かい事は気にしないし引きずらない性分の、筈だ!
「チェシャ〜迎えに来た!!」
「おお、ちびっ子もといシャミ! ご苦労!」
「チェシャも俺とお揃いのだ! 変幻する?」
変幻? 私はそんな事今までした事などないぞ?
何を言っているのだ?
「シャミ、申し訳ないけどチェシャは今、体が動かせないから、運んであげてくれる? テニア付き添ってあげて。あ、他の二人は私の魔法で飛んでくれる?」
「い!? アレをまたやるんすか?」
「アレとは前メリルが作り出した金色の羽根の事か?」
しかし、まいった。
人としての人生を終えると思っていたからな。
これから私は、どうしたらいいのだろう?
その気になって物凄く恥ずかしいというやつだコレは。
「兄様。手を貸す」
「せっかく私のこの美しい姿を今のまま維持できる機会を逃してしまったな。勿体ない」
「それは残念でしたね。ですが、そんな理由で人間辞めないで頂きたい」
本当に馬鹿な奴等だ。
だが、不思議と悪い気分ではないな。
仕方がない。
もう少しだけ、人として、リディの兄として。
この地を見守るのも、悪くないかも知れないな。




