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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第2章メリル動く
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テニアは胸を痛めている

「はい。これテニアに」


それは、物凄く高価な物でもなければ貴重な品でもない。

なんの変哲も無い女性用の櫛でしたわ。


「・・・・私にでしょうか?」


「うん。もっと良い物持ってると思うけど、これは御守りみたいな物なの。だから出来れば持ってて欲しい」


金色の櫛に上品な装飾が施されているソレを私はそっと胸にしまい込みました。


今まで主人に貰ったどんな褒美の品よりも嬉しかったですわ。だって、これはきっと私の事を考えて選んでくれたものですわ。メリル様、普段人に贈り物をなさらないと仰ってました。例えそれが、テットと同じ扱いだったとしても構わない。私はこんな風にメリル様に気にかけてもらえるだけで幸せですわ。


「・・・・テニア? 」


「有難う御座います。とても、嬉しいですわ」


「・・・うん。気に入ってくれたなら良かった」


メリル様。

私、本当に貴女の側で働けて幸せですわ。


正直、最初は可愛らしい女の子の側で働けるという旨味だけで勢いでここに来たのです。

私もかなり追い込まれていましたし。


「明日はお父さんもお母さんと家を空けるみたいなんだ。テニアチェシャの側に付いててくれない?」


「はい、了解致しましたわ。では、晩御飯はあちらで作れば宜しいですか?」


「うん! お願い」


明日は早起きして色々準備をしなければ。

人様の家の留守を預かるのですから粗相があってはなりませんもの。


そして、次の日の朝は、晴天でしたわ。


「じゃあ行ってくるねテニア! ラフィネラ! 出掛けるけど?」


「分かっております。ずっと横におりますから」


「え? そうなの? メッチャテンション低いから聞いてないかと思ったわ。テットとは違う意味で仕事放棄しようとしてない?」


あ、実は今テットはリディ様に付いております。

そうしたらリディ様からラフィネラを送り込まれたのですわ。そのおかげで場の空気が妙な感じになるのです。


寧ろ要らなかったのでは? 余計な疲労を送り込んでらっしゃったリディ様に苦情を申し上げたい。


「テニア。俺エドと遊んで来る。夕方テゼールの家に行けばいい?」


「はい。シャミ、宜しければエドも連れて来て下さいませ」


「はーい」


本当に、平和ですわ。

今まで生きて来た中で一番平和な日々かも知れません。


「テニア。今出るところだったんだ。後を頼んでも?」


「はい。あ、テゼール様、台所をお借りしても宜しいですか?」


「ああ、好きに使ってくれ。夕方には帰って来る」


「かしこまりました」


もう少ししたら、ずっと不在だったカスバールの精霊が帰って来るらしいですわ。未だ目を覚まさない、チェシャの身体を介して。


そうすれば、カスバールはきっと今よりも豊かに平和になる筈。


「・・・・今更、遅いですわ」


そして、貴方達も全てを忘れて幸せになるのですか?


「あの子を死に追いやったお前達を、許したりはしない」


ずっとこの瞬間を待っていました。


皆を信用させ、私がナシェスと二人きりになれる、この瞬間を・・・・。


「お前達も苦しむがいいわ。私の大切なあの子が苦しんだように・・・」


急がなければ。

こんなチャンスは二度とない。


このまま首を絞めればナシェスは死ぬ。

永遠に私の前からいなくなる。


やっと私の願いが叶う。


「お前があの子を名指しで呼んだりしなければ、あの子はあんな目に遭わなかった・・・この国と共に消え失せなさい」


ざまあみろ。


今更改心して、この国を救おうなどとでも思ったのですか? お前など、あのままサウジスカルで殺されてしまえばよかったのです。


そうすれば、私もここまでする必要なかった・・・。

メリル様に、出会う事もなかったのに。


「・・・・・え?」


な、何故?

目を覚まさない筈のナシェスが何故目を開けているの?


「私を殺すのは構わないが、この国を巻き込むのはどうなのだ? お前の愛する者の国ではないのか?」


「ナ、ナシェス・・・どうして?」


「私はナシェスではない。ナシェスは精霊を目覚めさせる為呼ばれた。私は留守を守っていた」


ナシェスでは、ない?

・・・・・ま、まさか!


「お前は・・・ナシェスの中にいた寄生虫?」


「テニア」


嫌ですわ。

今、背後を振り向きたくありませんわ。


「テニア」


「・・・・・一体いつからです?」


「何が?」


いやですわ。

分かりきった事、聞き返さないで下さいませ。

白々しいですわ。メリル様。


「私の本当の目的に気付いたのはいつです?」


「テニアがリディやナシェスを殺す為に私の侍女になった事? それならリディが毒を盛られた辺りで気付いてたよ?」


そうですのね?

流石メリル様ですわ。私が夢中になるだけありますわ。


「・・・そうですのね。私ももしや、とは思っていました。メリル様、私とはあまり一緒に行動されませんでしたもの。やはり、怪しまれていたのですわね?」


「ううん? テニアを私の側に付けなかったのは危なかったからだけど? だってこんな事バレたらテニア捕らえられて多分極刑だよね? テニアはそれでいいかもしれないけどさ・・・・」


なんですの?

メリル様はさっきから何をおっしゃってますの?


「そうなると、テニアに手を貸した子達も全員捕らえられて同じ罪に問われる事になるよね? テニアはそれでいいの?」


「・・・・・・っ!」


まさか。そんな事までお見通しだと?

一体どうやってその事を知ったと?


「何のことでしょう? 私は、誰の手も借りておりませんが? そもそも私に手を貸す者など、ここにはおりませんわ」


「・・・・・・・・そりゃあさぁ。リディも気付くはず無いよね。ここに勤めてる使用人がほぼ全員テニアの味方なんだもん。テニア何年か前まで宮廷で働いてたんでしょ? 誰も口を割らないし、証拠を揉み消せる。犯人を捕まえられない筈だよ」


やはり、全て気づいている。

この人は、全て。


「言ったでしょ? 私も、シャミもチェシャも・・・妖精の声が聞こえたって。彼等がそれを口にすれば、私達には全て筒抜けなんだよ?」


そうでしたのね?

妖精がそんな事まで口にするとは思いもよらなかったですわ。それでは、どうにも出来ませんわね。


「ラフィネラの事も、気付いてらっしゃったのですね?」


「・・・うん。リディに毒を盛っていたのは、ラフィネラ。貴方でしょ?」


ラフィネラ、いけない。

剣を納めなさい。


「メリル様。分かっていて何故こんな事を? 今、状況的に不利なのは貴女だ。私はいつでも貴女を殺せます」


「・・・・・あはっ!」


メリル様? この場面でお笑いになります?

ラフィネラは本気ですわよ?


「そうだね。まぁ、私も強いからラフィネラが生き残れるかは分からないけど? それにさぁアンタ本気でリディを殺す事を躊躇ってたでしょ?」


「勝手な事を。その口を閉じろ」


「だって本気で殺すつもりなら確実に仕留める。こんなまどろっこしい事しない。それもこれも全てテニアの為なんでしょ? 」


え? 一体どういう事ですの?ラフィネラは・・・。


「ラフィネラはテニアの大事にしていた子の事が好きだった訳じゃないよ。テニア、ラフィネラは・・・」


「止めろ!!」


いけない! ラフィネラでは、メリル様には敵わない!


ギシリッ!


動けない?私も、ラフィネラも魔法で体を拘束されましたわ。いつの間に魔法を詠唱したのです?

全く気付きませんでしたわ。


「テニアの弟なんでしょ? 妖精が言ってた」


人は、自分の欲を叶えようとすればする程周りが見えなくなるものですわ。でも、こんな事はあり得ない。


「ここにいるって知って追いかけて来たんでしょ? ずっと見守ってたんだよね?それで嘘までついて手を貸したんでしょ? テニア一人では危険だから」


「そ、そんなわけないですわ。わ、私に弟、など」


いえ。完全に否定は出来ない。だって、私は自分の出自が分からない。私は、自分の親が誰か知らない。


「で、どうするんだ? 私はまだここで寝ていればいいのか?」


「そろそろ退屈して来たんじゃない? 姿を変えるなら外に出ても大丈夫だよ?」


「そうか? では久々に外に行くか」


メリル様。

もしかしてずっと一人で色々と動いていらっしゃっていたのです?私達に知られる事なく? 一体どこからどこまで?


「・・・ねぇ、テニア」


「はい。何でしょう?」


「そんなに後ろめたいならさぁ、今度はちゃんと私がテニアを引き取ってあげる」


この顔は、本当に・・・全てを知ってしまったのですね?


「私が襲われたのが泣く程辛かったんでしょ? だったら二度とそんな事に手を貸さないで。テニアは私だけの侍女だよね?」


「・・・・メリ、ル様・・・」


酷い。

全部知っていたのなら、何故直ぐに私を陛下につき出さなかったのです?そうすれば全てが綺麗になった筈です。


「テニアが抱いている復讐心を私が預かってあげる。テニアは私の所為で、これからその願いを叶える事は出来ないけど・・・」


メリル様は、残酷ですわ。


「その代わり、これからはテニアの大切なものを私が守ってあげる。テニアがまた、失わないように」


「・・・・・ひどい。そんなの、ひどいですわ」


「・・・テニア」


「そうだよね。私は酷くて最低な女なの。それでいいよ。私さぁテニアとテットとシャミがいるあの空間を手放したく無いんだよね。既に習慣化しちゃったから今更それを変える気がないの」


私はずっと貴女を騙して危険な目にまで合わせたのに。

そうやって、貴女は簡単に私を許してしまうのですか?


私は、ずっと許せなかったのに。


「嘘は好きじゃないけど秘密は嫌いじゃないわ。ラフィネラも分かるよね?テニアは私の手の中にある」


「・・・・脅すつもりですか?」


「そうだよ? わざわざテットとチェンジしてまで釘刺してあげたんだから、有り難く思って? 精霊が無事誕生するまで大人しく出来たらテットとゆっくり話しが出来る時間をあげるよ?」


なんでしょうか?

全然関係ない話が展開され始めましたが・・・ラフィネラの目の色が明らかに変わりましたわね?


「まぁ嫌なら殺しに来てもいいよ? でもね、それはただの人殺しだからね? だって私。何も悪い事してないもん」


「あの無礼な態度は万死に値する」


「一度私がリディの前でかしこまった態度とったらリディキレたよ? 余りに私らしくないから腹が立ったらしい。私達はこれくらいで丁度いいよ。ラフィネラも本当は分かってるでしょ?」


メリル様。そうやって私などを大事にしないで下さいませ。私は、貴女の事を知れば知るほど自分の愚かさを思い知らされる。


「取り敢えずさ。テニアにいつまでも纏わり付いてる伯爵家だっけ? サクッと潰そうか?」


もっと早く貴女に出会いたかった。

そうしたら、少なくとも私はきっと今でも誇れる自分でいられた筈ですのに。

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