リディは少し捻くれている
「ご機嫌麗しゅうございます。リディ様」
「ああ。貴女もな。クララ」
前回の流れから少しばかり時間が経って今、私は伯爵家のご令嬢とお茶の席を共にしている。
今までカスバールでは、皇族と貴族のお決まりの社交などは長い間行なわれて来なかった。
何故か?
皆、それどころではなかったからだ。
それが父の代になり、更に私の代になり、最近やっとまともに人が暮らせるだけの余裕が出てきた。
その為、余計な考えを巡らせる余裕も出来たわけだ。
「お前達は下がっていい。私は暫くクララと二人だけで話がしたいのでな?」
「かしこまりましたリディ様」
それにより毎日毎日押しかけて来る婚約者立候補者達にうんざりしていた私は、婚約者候補を三人に絞る事にした。
「・・・・リディ様。このお菓子食べないのなら頂いても?」
「構わない。好きなだけ食べればいい」
「え? 貴方は神なのですか?」
そして、私は早速その事を後悔し始めている!
最初はメリルの屋敷に顔を出した時、偶々いた二人の発言に若干の苛立ちと少しの後ろめたさを感じた。
妃選びは避けて通れない問題だ。
だが、私は未だ婚約者を誰にも絞れていない。
その所為で彼女達が迷惑しているのは理解出来ている。
だが、ここだけの話、言っていいか?
ナシェスが皇太子として後継問題に直面した時。
女性達は誰一人その事に不満を漏らさなかった。
皆、ナシェスの妻になりたいと目を輝かせていた。
というか、皇帝陛下の私の顔が一目で分からないとかどうなんだ? 肖像画も一応あるぞ? ナシェスの顔が強烈過ぎて皆、私の顔覚えられないのか?
何故こんな事思うのかというと、他のご令嬢達も横を通り過ぎる私に気付かなかったからだ。そんな奴ら自分の妃に迎えたいと思うか? 皆どう思う?
そこで一番この婚約を望まないが、実は切羽詰まっている二人を婚約者候補に選んでみた。
これで暫くは安泰だな? 有難いだろ? 感謝しろ。
「リディ様はぁ〜変わってらっしゃいますのね? よりにもよって私とディアナを婚約者にお選びになるなんて」
お前モグモグしながら喋るな。
淑女だろ? 食事のマナーぐらい守れ。
そうなのだ。実はこの二人後々ちゃんと調べてみたら中々のくせ者達だった。
どうもこの二人、周りの貴族達からは変わり者の変人だと思われているらしい。
変人かは別として変わり者なのは私にもわかる。
これは嫁の貰い手が無いのも頷ける。
「クララ。今は人がいないから構わんが、社交場ではやめてくれ。お前はアグーか?」
因みにアグーとはカスバールの南に生息する野生動物で見た目は可愛らしい小動物だが、雑食で常に何かを口に入れモグモグしている。恐らく睡眠時以外はモグモグしている。
「イヤですわ。そんなに褒めないで下さいまし」
「褒めてない。・・・・わざとなのか?」
しまった。
今これを突っ込める者が誰も居ないのだった。
私とした事が・・・。そしてクララ。
お前はどれだけ腹を空かせていたのだ。
ここに来る度、食べ物を強請るな?
私は忙しいのだがな?
そして、もう一人の婚約者候補も、アレはアレで・・・。
「私に女らしくなど、無理な相談だぞ? 生まれてこのかた淑女のマナーなど、まともにこなした事ないからな?」
自信満々に言い放ったな!!
お前それでよく今まで生きて来れたな?
あ、必要なかったから生きて来れたんだな? そうだった。
「それにな。私は男と結婚など出来ないぞ?」
「どういう事だそれは」
「私の恋愛対象は同性だからな? 女性しか愛せない」
・・・・・・アタマイタイ。
どうして私の周りには、まともな女が居ないのだろうか?
贅沢は言わない。まともな良識のある淑やかな女性であれば、それでいいのだ。
「リディ。カスバールでそんな女性は生き残っていないよ? いいじゃん、強くたって。心強いじゃない?」
「メリル・・・お前他人事だと思って楽しんでないか?」
「楽しいよ? でも、他人事じゃないでしょ? アンタちゃっかり私も婚約者候補に入れてんだから」
「しょうがないだろう。シャミでは、時間に猶予が出来すぎてしまうんだ。この際どちらでも構わないだろう? 本当に婚約する訳じゃないのだからな」
そうなんだ。
三人目は散々騒がれてた本人にした。
その方が一時的にでも周りが大人しくなるからな。
それに、メリルの正式な婚約者はシャミという事になっているから一番候補者から外しやすい。
一時措置といったところだ。
「で? リディは何が気に入らなかったの? 二人が不満を口にした事? それとも、気付かれなかった事?」
お見通しか。
メリルは、本当に周りをよく観察している。
普通気づかないぞ? そんな事。
「私はそんなに、カリスマ性がないのだろうか。そこまで地味な顔でも無いと思うのだが?」
「カリスマ性はないね? でも、顔は綺麗なんじゃない? ただリディの場合チェシャが目立ち過ぎてたからかもね? 無駄に輝いてるからね? 目がチカチカするもんね?」
その表現はとても分かり易い。
そして、そんなメリルに何故か好感が持てる。
ナシェスをそんな風に表現するのは、お前かティファぐらいだろうな。
「私は嫌いじゃないけど?リディの顔。嫌味もないし、でも、爽やか過ぎなくて。人間らしくて身近に感じられる」
これは、慰められているのだろうか?
そうか、それはすまない。
そこまで深刻な悩みでもないのだがな?
「それに、リディがモテモテになるのは、なんか嫌だなぁ。なんでも程々が一番いいよ? テット見てみなよ。収拾つかなくなって、今大変な事になってる」
テットはアレで女性に大人気だからな。
女性から言わせるとテットみたいなタイプの男はカスバールではあまり見かけないらしいぞ?
「メリルもテットみたいな男は良いと思うか?」
「え? 何に対しての評価? まさか異性として、とか言わないよね? 」
ん? 何故そんな信じられない者を見る目で私を見ている?
そんなにおかしな事、私は言ったか?
「いや・・・一般的な女性の好みはどんなものかと聞いてみただけなのだが? そんな過剰に反応する事か?」
「私から世間一般的な女性の意見を引き出そうとする事がそもそも間違っていると思うよ?」
「・・・・・お前。自分で言うのか?」
「あ。もう満タンになったね? じゃあまた外に出て来る」
あの二人が来たお陰かメリルが大分まともに見えてしまっていたが、メリルも充分変わり者だったな。
すっかり慣れて麻痺していたぞ。
コイツは薬草と調合の事しか頭にない、薬草オタクだったな。
「・・・・リディの顔、好きだよ」
「・・・・ん?」
「私は、リディはカッコイイと思うよ? もっと、自信持っていいと思うけど?」
「・・・・お前、もしかして疲れてるのか?」
おい? 少しフラついたぞ?
本当に体調悪いんじゃないのか?
「人が珍しく、素直に口にしてみれば、これよ。本当に嫌になる・・・」
「何だ? 本当に大丈夫なのかメリル? マリオーネに診てもらった方が・・・」
「うっさい! 大丈夫よ! 人の心配じゃなくて自分の心配したら! じゃあね!」
バタン!
「・・・・・・っな!」
何だあの女! 人が真剣に心配してやればこの態度!
私は皇帝だぞ! やはり私を舐めきっているな!
どいつもコイツもカスバールの女は私を何だと思っているんだ! 治りかけてた気分が逆戻りになったぞ!
もういい! 暫く私は仕事に集中するぞ!
お前達などとはお茶など飲まん! 皆好きにするがいい!




