閑話*サウジスカルの大樹
ハイト・ゼクトリアム
サウジスカルの騎士で、大樹を守る血族の後継。
ティファの料理の虜になっている人物。
サウジスカル帝国には宮廷の建つ北側に、高々と聳え立つ大樹があった。
それは遥か昔から存在し、他国からもあれがサウジスカルの象徴である、と言われるほど有名なものだった。
あの大樹には精霊が宿っているのだと皆サウジスカルを羨んだ。
精霊の住まう土地は豊かになり、気候も穏やかで人が幸せに暮らしていけると信じられていた。
真実、サウジスカルはとても豊かである。
そして、外から見たサウジスカルは平穏で諍いがなく、あの国の人々はなんの苦しみもなく過ごしているのだとどの国からも羨まれた。
だが、真実は少し違う。
「不作で予定の税が徴収出来ない? それがどうした? それに備えて蓄えているのだろう? 言い訳などしていないで決められた額を収めさせろ」
「し、しかし! 今年は本当に魔力不足の影響で、どの領地を困窮しております。逆にこちらから出さねばならぬ程追い詰められている領土もあるのですよ?」
その大樹はサウジスカルにとって厄災であった。
あの木のお陰で確かに土壌は潤った。
だがそれも大樹がサウジスカルの広大な地から魔力を吸い上げ始めてしまえば全て台無しになってしまう。
人々は枯れた地をまた再生させる為悪戦苦闘しなければならない。そして、またその成果がみられる頃に元の枯れた地に戻されてしまうという繰り返しであった。
しかも、大樹は何故かサウジスカルの皇帝の一族を呪っていた。いや、呪いとは違うのかもしれない。
サウジスカルの皇帝の血族レインハートは代々、大樹に触れる事を厳しく禁じられていた。大樹に触れるとおかしくなるのだと伝えられていたからだ。だが、皆半信半疑ではあった。
そして、大樹を本来守るといわれる一族ゼクトリアムも、大樹に近寄る事を皇家の人間から禁じられていた。
それが何故なのか。永い年月の中で真実は迷宮入りし、真実を知る手立てもないまま、時が過ぎた。
そして、ある代で禁じられていた大樹に誤って触れてしまった者がいた。
エルハドの父。ノア・レインハートである。
彼は、それから、少しずつ人が変わっていった。
今までの彼からは想像出来ないような行動をし、冷徹になっていった。そして、とうとう彼の口から発せられたその言葉にエルハドは覚悟を決めた。
デズロ・マスカーシャを攫って来ようと。
「ハイトが、大樹の一部?」
「はい。私も先程ギャドから聞き、ヨシュアもその情報を別の所から手に入れていました。ハイト本人に確認していないので、確実ではありませんが、恐らくは」
なーんか穏やかでない話してる?
妖精が騒がしいから来てみれば・・・揉め事かな?
「もし、これを他の者や他国などに知られたら皆ハイトを手に入れようとするでしょうね?まぁそちらは問題ないとしても、セルシス様の件いかが致します?」
「襲われたら逃げるしかないんじゃない?ハイトだって黙ってやられたくは、ないだろうしね?ヨシュアの考えもいい線いってると思うよ?ハイトが言うことを聞くとは思えないしね?逃げて済むなら何故今まで逃げなかったのかは、気になる所だけど・・・・」
ハイト?
あれ? 何処かで聞いたような・・・・確か、フィクスさんの口から度々出て来たサウジスカルの、副騎士団長じゃない? お姉ちゃんの料理のファン!って、二人共どこ見て話してるの?
「あれ?それ何ですか?鏡?」
「あー?メリル。駄目だよ女の子が不用心に男の部屋に入って来たら。危険だよ?」
「え?男性の部屋には入らないよ?伯父さんの部屋だからいいでしょ?」
「・・・・・もう、本当君、大した度胸してるよね?」
伯父さん? 私伯父さんが何を言いたいのか、伝わらない。
もしかして今お邪魔だった? あれ? 鏡の向こうに優しげなイケメンがいるね? もしかしてコレサウジスカルに繋がってるの? すごい!
「デズロ様?その子がティファの義妹の?」
「そうそう!カスバールの王様を足蹴にしている超天才薬師のメリルちゃんでーす!」
「あ、どうも?こんばんわ?」
「否定しない所がデズロ様の血も感じさせますね?私はササラ、デズロ様の養子でサウジスカルの宮廷魔術師として働いています。よろしくメリル」
褒められてないよねこれ? 私別に伯父さんには似てないよ?
「宜しくするかは、分かりませんけど、よろしくです」
あ、そうだ。
とりあえず一番伝えたかった事言っておかないとね?
「そうそう。ベロニカ治ったよ伯父さん」
「メリル、伯父さんはやめてってば。最初はデズロさんって名前で呼んでくれたのにぃ」
いや。最初はわざとだった。わざと懲らしめてやろうと思ってた。でもさ。
「だって、お父さんに伯父さんを甘やかすなって言われたんだもん。私はどっちでもいいけど見つかると面倒なの。あの人頭の後ろにも目が付いてると思う」
「チッ!やっぱりアイツ途中で捨てて来るんだった」
そんな事言ってるからいつまで経ってもお父さんと険悪なんだよ? いい加減仲良くしなよ。もうすぐあちらに帰っちゃうんだからさぁ。
「随分簡単に治ったのですね?厄介な状態だったのでは?」
「そりゃそうよ!聞いて下さいよササラさん!アレはお姉ちゃんの身体の構造を知り尽くした私が作った、お姉ちゃんの為だけの薬だったんですよ?それも今まで作った中でも最・高・傑・作だったんです!!アレを本人が使えば一瞬で身体の傷が回復して飲む前以上の身体能力を発揮できるという、二度と作らないであろう逸品です!!」
「あ、はぁ?」
「あんなに、あんなに口酸っぱく注意して、念を押したにも関わらず結果コレなの。あの人本当に人の言うこと聞かないんだから腹の立つ。あーイライラしてきたぁ」
嫌がらせにベロニカ超元気にしてやったからね!
もう、お姉ちゃんにも遅れを取らないと思う!
お姉ちゃん懲らしめてやって、ベロニカ!
「で?天才メリルちゃんは、それをすぐ治しちゃったんだよね?流石!!よ!天才!!」
「でへへ!それほどでもぉ?」
「え。チョロ・・・・ごほん。そうなんですね?素晴らしい」
ん? あれ? 私なんか間違ってた?
いや、でも天才なのは本当だから。
「ごほん。冗談は置いといて、お父さん達が先にベロニカを治療してくれてたから、あとは私がベロニカにあった解毒薬と回復薬を作るだけだったんで。あの人が治ったのは皆んなのお陰だと思うよ?」
「それでも、ありがとうメリル。助けてくれて」
「いいえ!お姉ちゃんがお世話になった人ですから!」
「それで、話を戻すけど大樹にハイトを諦めさせる方法はないのかなぁ?」
大樹にハイトを諦めさせる?
あ、さっきの話しね?
そのハイトさんが、大樹の一部? 何だそれ。
「デズロ、お前大樹と話が出来るとか言ってなかったか?前は真に受けていなかったが、本当なんだろ?」
「話っていうかぁ。一方的に囁いて来るんだよね。僕は慰めてあげるだけ」
「え?木が喋るの?精霊付き?」
「そうだね。しかもかなり大物。神様の次ぐらいの」
へぇ? それはそれは・・・凄く興味あるけど、今私は見に行けないからなぁ。
「ん?まてよ?メリルって植物にはとても詳しかったよね?それは薬草以外でも?例えば今話してた樹木とか」
「うん。私この世界の植物に結構詳しいと思う」
「ねぇ、じゃあメリルの意見を聞かせてほしい。ある種類の木に核というものが存在して、それを切り離されても生きていけると思う?それも何年も」
核かぁ。根じゃなくて核って事は、やっぱり精霊の心臓みたいなものなんだよね?
「無理じゃない?だって人間で言う心臓でしょ?それが失くなったら枯れちゃうんじゃない?あ、でもぉ弱点を隠す為に擬態して切り離した方を本体みたいに見せてるって場合があるけどね?」
「つまり?」
「核の方が本体だから、核が壊れなければ、また幾らでも新しい芽がでるのでは?それが一番自然だと思うけどな?」
それがただの植物じゃなく精霊ならありうるよねぇ?
でも、なんで本体の核の方が人になってるの? 意味わからん。
「残留思念?」
「誰のだ?・・・・・まさか」
「恐らく、それはハイトだ。ハイトになる前の大樹だった頃の」
つまり、人でなかった頃の昔の記憶が本体の核ではなく、聳え立つ大樹にだけ残されてるって事かな?へぇ?
「どうする?本人に言ったとして、どうにかなる物なのか?」
「・・・・ハイトに決めさせるしかないね。きっとその時になれば分かる」
私はその時、この話を他人事だと思って聞いていた。
全ては繋がっていたのに。
あの大樹こそ私達を長年苦しめて来た元凶なのだと、その時の私達には知る由もなかった。
「宴が終わったら僕達はサウジスカルに帰るよ。メリルも落ち着いたら一度サウジスカルにおいで。リディが渋ったら僕が迎えに来てあげる」
「やったね! 約束だよ? 約束守ってくれたら、またデズロさんって呼んであげる!」
「え〜? 今呼んでよ! 僕はまだおじさんなんて認めない! 僕は永遠の美青年なんだよ! 気持ちはね!」
サッサと帰れとか思うんじゃなかったよ。
デズロさん。
私わかんないよ。私は、どうしたら良かったの?




