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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第1章カスバール宮廷
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リディはメリルを笑わせたい

「・・・・・はぁ」


やっと今日一日が終わった。


あの女。

本当は即刻断罪してやりたいところだが、証拠など他に残してはいないだろう。


マチェスタがあの女の従者で助かった。


即刻辞職させて手元に置くとしよう。

それにしても、気分が重い。


この間メリルが襲われた場面に出くわしてから、ずっと気分が晴れない。


メリルのあの姿と、あの顔が忘れられない。


「あんな事を許してしまうとは・・・・」


だが、父が現役だった頃あんな事は此処でも頻繁に起こっていた。取り締まっても次から次へと被害が起こる。


緩和されたのはここにティファが来てからだ。


彼女は美しい女性だった。


周りの男どもは勿論彼女を放ってはおかなかった。


最初彼女にしつこく言い寄った挙句、隙を見て彼女を襲おうとした兵士は彼女に殺された。


そして彼女は言い放った。


「もし今後、この様な場面を見つけたら即刻処罰。言い訳は無駄です。勿論私以外の女性、男性関わらず。その場を抑えた時も例外無しです」


最初は怒り狂い彼女に襲いかかる者が絶えなかった。

だが、半月も過ぎると皆、悟った。


日に日に増える死体の山に馬鹿な考えを起こす者は居なくなっていった。

彼女に正攻法で敵う人間はいないと。


そうこうしているうち、彼女はナシェスに目を付けられ益々周りは何も言えなくなった。


そして、彼女は良い意味でも悪い意味でも孤立した。

ただ一人。ベロニカという部下だけが、彼女の側にいた。


「・・・・そうか。だから、デズロ様は・・・」


私はいつも、誰かの能力や才能を見つけ出す能力はある癖に肝心な事を見逃してしまう。

誰にとって何が大事なのか。


メリルにとって今、最も良い状況とは何なのだろうか?


「・・・・・あれ? リディ?」


「メリル? 何故ここに? アースポントの補充はまだ大丈夫だぞ?」


テニアもちゃんと側にいるな?

あんな事があったばかりなのに、夜ここを訪れるとは。


「う、う〜ん。そうなんだけど・・・・」


顔の怪我をそのままにしてあるな。

今日の出来事を話した方が良さそうだな。


「少し話してもいいか?」


「うん。テニア少し外で待っててくれる?」


「別に居ても構わないぞ?」


「ううん。二人で話したいの」


本当に、大丈夫なのか?

あんな事があった後なのに・・・・。


「かしこまりました」


「テニア。何かあればすぐに声をかける。君も何かあれば直ぐに知らせてくれ」


「はい。承知致しました」


こんな時間に、こんな場所で二人だからだろうか。

なんだか変な気分だ。


「テットがさ・・・あれ以来、私とまともに目を合わせてくれないんだ。それに、チェシャといる時も妙にピリピリしちゃって。チェシャはあんな感じだから変化ない様に見えるけど、柄にもなく気を使うんだよ。気持ち悪い」


「まぁ、ああ見えてテットも繊細な所がある奴だからな。それだけ、お前が傷ついた事が許せないんだ。兄様は多分何となくだな」


「・・・・・うん。そうなんだけど・・・」


元気がないな。

この前の事があったから、と、いうよりこれは・・・・。


「同情されている様で気分が悪いか? 」


「・・・違う。私は・・・・何て言ったらいいのかな? ちょっと色々鈍いんだと思うんだ」


「鈍い?」


そんな事はないと思うぞ?

メリルはよく周りを観察しているし、人の感情の変化を読み取る力もあると思う。逆に鋭いと思うが?


「辛いとか、悲しいとか・・・そういうものを感じる能力に疎いと思う。多分子供の頃余りにも人の死を見る事が多過ぎた所為だと思うんだけど。私の前には大きな扉が二枚ぐらいあって、その小窓から自分を観察している感じなの」


確かに、メリルはどこか自分を客観視している所があるとは思っていた。それはメリルの頭が良過ぎるためだと思っていたのだが。それだけではないのだな。


「今まで生きてきて、それで特別問題が起きた訳じゃなかったし、一々悲しんだりして消耗するのも嫌だったから、得な体質なんだって思ってた。でも、ここに来て気付いちゃったんだよね」


「何にだ?」


「・・・・私がそれを口にするとね、聞いた人間が皆、酷く傷つくの。私は、そうやってきっと今まで沢山の人間を無自覚に傷つけてきたんだわ」


「・・・・・メリル」


そうか。


メリルはきっと自分がされた事よりも、私達の反応を見て傷ついたのだな。


お前を見て、お前の吐き出した言葉を聞いて、その言葉にショックを受けた私達を見て。


「どうして・・・・上手く、いかないのかなぁ」


「・・・もしや、ティファとの事もか?」


そうなのだな。

お前は本当に、姉中心で世界が回っているのだな。

ここまで徹底していると、いっそ清々しいな。


「メリル、隣に掛けてもいいか?」


「うん? いいよ」


やはりな。

お前、私達の事など全然怖がっていないな?

清々しいぐらい私は意識されてないな?


「確かに、お前が襲われた事に私はショックを受けた。あの時のお前の言葉にも正直考えさせられた。お前の言葉は真実だと思う」


実際に数多くの者達が此処でも被害を受けてきた。

お前は知らないが、その中の一人にデズロ様も含まれている。私達は未だ、明けない夜の中にいる。


「メリル。私は、お前にあんな事を言って欲しくない。それは、私の想いだ。お前が口にする事で誰かが傷付く事もある。だが、何もしなくても傷つける事もある」


「・・・・・リディ?」


「私はお前の事を何も知らない自分より、知ることが出来た今の自分の方が誇らしい。私はこれでまた一つ間違いを犯さなくて済んだ。大丈夫だメリル。私はお前が思うほど弱くない。私も・・・幼い頃から色々な死を見つめて来た。お前とは、違う形ではあるが」


先程から近いせいか、やたらとボサボサの髪が気になる。

私はメリルが髪を下ろしたところを見た事がないな?

少し整えてやるか。


そういえば昔よく、母の髪を触らせてもらったな。

メリルの髪も想像以上に柔らかい。


なんだお前、髪を下ろした方が・・・・。


「何に傷付くのかは人それぞれだ。そんなもの一々気にするなど馬鹿げている。上手くやろうなどと考えるな。そんなもの、お前らしくない」


「・・・私らしいって何よ?」


「細かい事は気にするな。放っておけ。文句がある奴は向こうから言ってくる。それでもモヤモヤするのなら張り倒せ。テットならお前が張り倒したくらいではビクともしない」


お前、ワザと髪をボサボサにして顔を隠していたな?

女性らしい、可愛い顔をしている。

髪を下ろすと歳相応に・・・可愛く見える。


「変に気遣うな。余計拗れる。私はこんな事ぐらいではお前を手放さない。何があってもアースポントへ魔力は注いでもらうぞ?」


「・・・・ははは! ちょっと! さっきから何よ? 人の髪勝手に弄らないでくれない?」


そうだ。笑え。

私は、お前に笑って欲しい。


「もう、身体の傷は治して大丈夫だ。犯人はわかった。事情があって捕まえる事は叶わないが、お前にもその相手を伝えておく。敵は奴だけではないだろうが」


「うん。ありがとうリディ」


「一ついい事を教えてやろう。テットはな、ああ見えて嫉妬深い。相手が家族や友人大切な者であればあるほど、自分の側に置きたがる」


「そうなの? それは、意外」


そうだろう? 私もそれを知った時驚いた。

そして、自分がその中にいるのだと知った時も。


「その中に既にお前も含まれている。そんなに気になるなら、怪我を治してテットと話に行け。きっとまた、元どおりになれる」


仲直り出来るかも知れないが、元どおりは無理かも知れないな。この姿のメリルを見たら、余計心配するやもしれない。


「リディ? まだ私何処かに傷残ってた?」


「いや。可愛い顔に戻ったぞ」


「そう? まぁ元が良いからねぇ?」


今そんな風に戯けて見せても、いつもの様に憎たらしいなどとは思えない。ただ可愛らしいだけだ。それでも、私は気付かない振りをしよう。


「どの口が言う。調子に乗るな」


それでお前が笑うなら、私はいつまでもお前に付き合おう。お前が気持ちよく過ごせるのなら安いものだ。

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