メリルの秘密
私は昔から不思議な生き物が視えた。
俗に言う妖精なるものだ。
それらは私以外の家族には視えなかった。
その子達は気まぐれで自由。
基本的にこちらに関心を示さない。
ただ共通して言える事は彼等の集まる場所には魔力が沢山存在した。
つまり、私の周りには雑音が多かった。
[あの子またティファに悪戯して返り討ちにあったよ?]
[クスクス懲りないね? でもそれでティファ怒られちゃったね?あの子はやり返しただけなのに]
[ねー?]
妖精の言う事を一々言葉にしていたらきりがない。
私は全てを聞き流した。
だって誰が信じる? 妖精が全て見ていたなんて。
「ティファ! 何故また怪我をさせたんだ! あれ程暴れては駄目だと言っただろう!!」
なんて要領が悪い姉だろうと思った。
下らない言葉など聞き流して適当に無視すればいいんだ。
その度に一々ぶつかっていたらきりが無い
私は自分は分かっているのだからそれで良いのだと思ってた。私はちゃんと姉の事を分かっている。家族の事を理解している。私達が生き残れればそれでいい。
お姉ちゃんがいなくなった後、私は初めてその子達に文句を言った。どうせ分かりはしないと、半端ヤケになっていた。
「どうして、いつもどうでもいい事は教えてくる癖に!なんでお姉ちゃんがいなくなる事、教えてくれなかったのよ!!役立たず!!」
[・・・・・だってメリルが私達を無視するんだもの]
衝撃的だった。
私は、この子達は私になど関心が無いと思っていた。
その証拠に、この子達は一度だって私自身に話をかけて来なかった。
[メリルはこの世界に興味がないでしょう? 何故私達がここにいるのか一度でも聞いてくれた? 貴女にしか私達は視えないのに]
そう。
ちゃんと訳があった。
私があの子達を視る事が出来る理由。
だけど、もう遅かった。
[でも、もういいの。私達の目的は果たせたもの。早く芽が出るといいなぁ・・・]
その時、私はまだ、それが何の事を指しているのか理解出来ていなかった。
「・・・・一体、何の為にこんな事」
「煩い黙って。集中出来ない」
全く膝枕ぐらいでギャーギャーと。
本当にリディを見習って欲しい。
[可哀想。この人色々壊れちゃったんだね? ]
私があの子達に耳を傾ける様になって分かった事がある。
この国には本来ある筈の精霊がいない事。
精霊は各国に必ず一体いるということ。
そして、その精霊とコンタクトが取れる人間が必ず存在するということ。つまり、私がソレなのだ。
[何でわざわざ壊すんだろうね? 綺麗な色なのに]
デズロさんの話を聞いて私は確信を深めた。
デズロさんは、あちらに呼ばれたと言っていた。つまり、デズロさんも精霊と繋がりがある。恐らく、私達の血族が精霊と繋がりを持てるのだ。
お姉ちゃんも、あちらに呼ばれたのかもしれない。
カスバールの精霊を探す為に。
そして最近気になっているのはリディについて。
彼には魔力が全くないのにヤケに多く妖精が集まっている。しかも無償で彼を助けているのだ。
・・・・・どう考えてもおかしい。
そして、ナシェスにも多くの妖精が付いていた。
ただ・・・・・。
[やっと側にいられる様になった。ありがとうメリル]
何でナシェスはこんなにも精神汚染が酷いのだろう。
普通に過ごしているだけでこんなにも人の精神構造が乱れる事などまずない。彼は私達みたいに常に追い詰められていた訳ではない筈だ。
ただ、一つの可能性を除いて。
「ナシェス・・・貴方は今日、その名を捨てる。そのナシェスに一つ問いたい」
「・・・・・・なに・・・?」
「貴方。ベルシャナに何をされた?」
"いいかナシェス。私達はな? 選ばれた存在なのだ、神に選ばれこの国とそこで暮らす人間を授けられた、特別な人間なのだ。お前はまだ赤子だが、私によく似ている。いいか? もし、私がいなくなったらお前がこの国を引き継ぐのだぞ? そして思い知らせてやるがいい"
「・・・・・・・・・・・・あっ・・・」
"私達を見限り捨てたこの世界に、其れ相応の報いを与えるのだ。お前は思うまま欲し、支配し、そして壊せ・・・自分の身が滅びるまで。大丈夫、そのうち何も感じなくなる。お前にはとっておきのプレゼントを授けてやろう。三歳を迎える可愛い我が孫に私からのささやかなプレゼントだ"
「あ・・・・・・あああああああああっ!!!」
"大丈夫。死にはしまい。ただ何も感じなくなるだけだ"
「いやだ・・・いやだいやだいやだいやだぁーー!!!」
「チェシャ! 私を見て! 私の目を!!大丈夫、私しかいない。あの男は、もういない!!」
「あ、あああああ!!どうして・・・私はただ・・ただ・・・教えただけなのに・・・どうして・・・」
「何を教えたの?貴方は記憶の彼方で何を見た?」
「・・・かのじょたちの、きおくを・・歌を・・口ずさんだだけなのに・・・・」
恐らくそれは、妖精達の歌だ。
そしてきっとあの男は知ったに違いない。
この国の精霊が、この地を見捨てたのだという事を。
ゴボッゴボゴボゴボッ
「・・・・こんなもの・・赤子に使うなんて・・・狂ってる・・・」
私がそれを見たのは今日で二度目だ。
初めての患者はお母さんを探し当て、すっかり人が変わってしまった娘を治して欲しいと半端無理矢理押しかけて来た。
母はそれが何なのか勘付いた。
カスバールの一番東の沼に沈む石の中に何千年も昔から生息している寄生虫がいるらしい。
昔偶々それを発見した青年はそうとは知らず持ち帰りその後彼は日に日に表情を失って別人に成り果てたと聞いている。当時原因は不明で、しかしその後もそんな症例は続いた。母がそれに気付いたのはまだ当時ちゃんと確立出来ていなかった触診の研究の最中。身体の中で蠢く紫色の糸が見えたと言っていた。
厄介なのは、やつらは一度体内に入ってしまうと見つける事が難しい。体内から出すのも一苦労だ。巧みな精神操作と魔法技術が要求される。
そして・・・・。
「はは! やっと自由になれたぞ? 長い間そいつの体に押し込められて窮屈だったんだ! 中々死なないから、辟易していた所だった」
長い間、体内で栄養を蓄えた寄生虫は宿主が死ぬと体から出て人間に形を変え、人間に成りすます。
「その姿やめてくれない? 他に形を変えられないの?」
「えーーー? 面倒だなぁ? ・・・まぁいいや。痛い思いをせずに出てこれたから、何かの動物にでも姿を変えよう」
「そうして。誰にも気付かれない様にね? 」
「ふふふ。ありがとうメリル。私を自由にしてくれて」
彼等は基本無害だと思う。
人に紛れてその寿命が尽きるまで生きて行く。
死んだら彼等は人と同じように土に還り、寄生虫が増える事はない。変化したらそれで終わりだ。
だが、一つ問題はある。
彼等の精神構造は根本的に宿主と同じ物になる。
「・・・・ティ・・・ファ・・・」
「・・・天才なのも考えものだわ。どうしよう」
ベルシャナ・ディムレムがナシェスにコレを使ったという事、それはつまり彼もコレを体内に宿していた可能性が高い。それは、最悪の事態を引き起こす。
彼が殺されて相当な時間が経過している。
「・・・・はぁ。見て見ぬフリ出来ればなぁ」
出来ないよね。
視えるって本当に不便。
いっそ何も見えなければ楽に生きられたのかなぁ。




