リディは穴があったら入りたい
失敗した。
完全なる失態だ。
「どうするのですか!? 彼女が帰って来なければまたこの国の大地から魔力が枯渇してしまいます! 彼女の替わりになりそうな者もまだ見つかっておりませんのに!」
「・・・・彼女にはテットが付いている。彼を、信じるしかないだろう。この事は、出来るだけ黙っていろ。彼女が戻って来た時、捕らえてしまえと言い出す奴等がいるだろうからな。まぁ、そもそもそれも現実的でないと思い知らされたが」
「・・・・かしこまりました。アースポントの方は何とかなりそうで?」
「ああ。出て行く前にメリルが満タンにして行った。代わりの魔力の結晶も置いていった・・・・私は・・・」
私は、一体何をやっているのか。
何故、ちゃんと彼女の事を見ていなかったんだろう。
"私を捕まえようとする大人を退けて、いつまでも諦めずお願いされたから私だって嫌だったけど我慢した。私は、リディを信じたのに"
私は祖父や父の様になりたくなかった。
それなのに結局同じ事を繰り返す。
無理矢理は嫌だった。
彼女の意思でここにいて欲しかった。
でも、頭の何処かで、彼女も私達を見限って逃げ出すと思っていた。
"私は・・・・お姉ちゃんじゃない"
メリルはきっと、自分ではなく自分のむこう側にいる何かに私達が期待していたのだと気付いていたんだな。
何度も何度も私じゃなくてもいいと言っていた。
私は、その彼女の言葉の意図を全く理解していなかった。
彼女が私を信じていたなんて、少しも信じていなかった。
「・・・・ほんとうに・・・いやになる」
彼女は嫌がり悪態はついていたが、あんなにも私達を助けてくれていたのに。
冷静に考えれば彼女が本気になれば、いつでも逃げ出せたんだ。だが、彼女はそうしなかった。
どうして私はいつもこうなのだろう?
ティファの時もそうだった。
彼女を最初に見つけ、その才能に気付いたのも、お金を稼ぎたいと言った彼女に闘技大会の事を教えたのも私だ。
あれさえなければ、彼女がここから逃げ出す事などなかった筈だ。
「リディ。メリルの事を聞いたぞ」
なんだ?
上手くいっている時には声などかけなかったのに、失敗した途端私を責めるのか? 元はと言えば貴方がちゃんとこの国を立て直さなかったから・・・・。
「実は・・・彼女と少し話をした。その時ティファの話になったのだ。すまんリディ。恐らくその所為で彼女はここを出たのだろう?」
「ーーーーーーッ!!」
どうして!
どうして貴方はいつも私の邪魔ばかりするんだ!!
いつだってそうだった。
貴方の目には兄しか映っていなかった。
私の言うことなど最初から聞いてなどくれなかった。
母に似なかった、ただそれだけで、私は蚊帳の外だった。
「・・・・リディ?」
「どの道知れていたことですので、お気になさらないで下さい。しかし、今後その様な勝手な行動はおやめ下さい。私も、一応考えて動いておりますので」
「そうだな。すまない」
謝るな。
貴方がそんな風に謝る姿など見たくない。
殺してしまいたくなる。
貴方に見えるか?
この国の人々の姿が。未だ苦しみの中で生きている人々の声が・・・聞こえているか?
「・・・・メリル!」
"アンタは何も分かってない。私がどうでもいいって言ったのは、この国と一緒に滅びてもしょうがないって意味よ。私はお姉ちゃんみたいに、無責任に自分の国から逃げ出したりしない! どんなクソみたいな世界だって、ここは私の故郷だわ! ここで生きて死んでいく。でも、どう生きて死ぬかは私の自由でしょ!! その自由まで奪うって言うの!!"
そうだな。ここは私達の国だ。
ここで生きて、ここで死ぬ。
だが、どうせ生きるなら幸せな人生の方がいいに決まっている。私が諦めていなかったから、お前も諦めるのをやめたのにな。
「あ。へ、陛下」
「あー陛下だ。どうしたの?」
どうして私はここに来たのだろう。
もうここに、メリルはいないのに。
「すまない。私の所為で君の師匠が出て行ってしまった」
保護したこの少年もここに来た時はガリガリだったのにな?今じゃふっくらとして健康そうだ。
「陛下・・・・」
「すまない。シャミ」
首を傾げているな。
意味が、わからないか。可哀想に。
メリルはもう、帰って来ないかもしれないのに。
「俺。二人ぐらいなら大人を乗せて飛べる」
飛べる? ああ。そういえばシャミは変幻出来ると言っていたな?
「そうか。それは凄いな?変幻すると大きな鳥になるのだったか?」
「一緒にメリル迎えに行く?」
「・・・・・・場所が、わかるのか?」
「わかるよ?教えてくれるから」
教えてくれる? 誰が? 何もないぞ? どこを見ている?
「喧嘩したらちゃんと謝りなさいってメリル言ってた。俺の事本当に好きな相手ならちゃんと許してくれるんだって」
メリル。お前もシャミ相手ならまともな事が言えるんだな?ちょっと驚いた。
「陛下は、メリルの事・・・好き?」
どうだろう。
好きと言える程、彼女の事を知っているわけではない。
私は、彼女の事をまだ全く知らない。
「私は、メリルの友人だ。友人として好いている」
「ふーーーん? よく分からないけど、ならきっとメリル、許してくれる! 行こ! 陛下、テニア!!」
こんなに近くで、人が変幻するのを見たのは初めてだ。
なんて・・・・美しい・・・。
「ちゃんと掴まってて! 落ちたら死んじゃうよ?」
そうだな。
だが、どこをどう掴んでいいのかわからない。
「陛下。宮廷を空けて大丈夫なのですか?」
大丈夫ではないな。
だが、今回ばかりは、私が迎えに行かなければ。
「メリル以上に優先されるものはないからな」
どうか、何事もなく無事でいてくれ。
そして出来れば、ちゃんとお前に謝りたいんだ。
例え、それでお前が許してくれなくても。




