湧き上がる欲求【残酷な描写あり】
「さ、入って。お菓子を用意するから」
その女の子は僕がそう口にした途端表情を硬くした。
この子と出会って僕はその日、初めて彼女に拒絶された。
「・・・・ごめん。入らない・・入ったら怒られるから」
あれ程僕を信じきって僕の事を好きだと言ったのに、僕の暮らす屋敷を見た瞬間、彼女は僕を疑った。
でも、彼女は正しい。
「そうなの? 折角メリルの為に用意したのになぁ・・・残念」
僕は彼女の可愛らしい顔を優しく掴んで上を向かせた。
まだ幼い彼女が問うように僕を見ている。
きっと彼女は本来とても賢くて、警戒心が強い女の子の筈なんだ。でも、僕にはその警戒を一度は解いた。
僕に恋したからだ。
その日、僕は初めて女の子にキスをした。
彼女からは甘く優しい匂いがする。
僕はそのまま彼女を抱き上げ屋敷の中に連れ込んだ。
この屋敷の中では彼女は魔法をまともに使えない。
「マチェスタ? 私、帰る」
「駄目だよメリル。まだ僕と遊ぼう。そうだ、追いかけっこしようか? このまま二階まで競争して僕から逃げ切れたらお家に帰してあげる」
父も母もこの日は出掛けていなかった。
ドアは盗賊対策用にとても頑丈で、外も中も特殊な鍵がないと開けることが出来ないようになっていた。
「そうだな。二階の一番端の部屋にメリルが先に辿り着いたらメリルの勝ち。でも、その前に僕がメリルを捕まえたら僕の勝ち。どう?」
「・・・・なんで? 私はそんな事したくない」
「僕はしたいんだ。メリル・・・僕はね?」
ああ。この子を壊したらティファはどんな顔をしてくれるのかなぁ? とても楽しみ。それに、メリルも・・・。
さぞかし、良い顔で泣くんだろうなぁ。
「・・・・どぉして・・・マチェスタ・・・」
僕の手にナイフが握られているのを見てメリルは状況を正しく理解したよね? 偉いよ。やっぱり君はとても賢い。
こんなに幼い子供がこの状況を瞬時に理解出来るなんてまずないよ?
「僕は、メリルを滅茶苦茶に引き裂いてしまいたいんだ。可愛いメリル。さぁ、僕を楽しませて」
走り出した彼女を一定の速度で追いながら僕は、はやる気持ちを抑えるのに必死だった。
ギリギリまで追い詰めて、彼女が泣き叫ぶ姿を脳裏に焼き付けるんだ。女の子は弱くて少し力を入れただけで死んでしまうから気を付けないと。
ああ。楽しみだ。
僕は、この日を迎える為にメリルに近づいたんだから。
"僕が、人間じゃないけどメリルをお嫁さんにしたいって言ったらどうする?"
"え? マチェスタ私の事好きなの?"
"好きだよ。誰よりも"
この日の為に、僕はメリルの気を引いた。
大事に大事に可愛がって僕しか見えないようにした。
"じゃあいいよ? 私もマチェスタが好きだから"
"今は離れ離れになるけど、いつか君を迎えに行く。それまで僕以外には恋しないでね?"
それが、今日終わる。
メリルと僕の関係が。
僕がその全てを壊すから。
"分かった。待ってるマチェスタ"
"約束だ。僕は約束を守るよ、メリル"
僕の伸ばした手は予定通り彼女の襟を掴んで、そのまま辿り着いた部屋へと誘った。
僕はメリルの首と腕を掴んで思い切り床に叩きつけた。
「捕まえた。僕の勝ちだね?」
すぐ泣き出すと思ったメリルは全く泣かなかった。
それどころか初めて見る表情で僕を睨みつけた。
そして、空いている手で僕の腕に目一杯爪を食い込ませた。
「あはは! 抵抗するんだね? 本当に可愛いなぁメリルは」
部屋に布を引き裂く音が響きわたる。
彼女の不健康に見える白い肌が晒されて僕が掴んだ箇所が赤い跡を作っている。とても綺麗だと思った。
「全部、嘘だったの? こんな事をする為に私に近付いたの?」
「そうだよ? その為に近付いた。僕はね、綺麗だったり可愛い物が悲鳴をあげる姿を見るのが大好きなんだ。大事に大切に育てた小鳥が信頼していた僕に突然傷付けられて、訳も分からないまま壊される。僕に裏切られた時の絶望した姿を見るのがさ?」
「こんな事をして、アンタただじゃ済まないんだから。絶対に私の家族はアンタを許したりしない」
だろうね?
でも、それが目的だからなぁ?
「そうだね? 大事な大事なメリルが傷付けられ殺されたら君の家族はどんな顔、するかなぁ?」
「・・・・狂ってる! 離せ変態!!やめて!」
メリル元気だなぁ?
もう少し痛めつけないと駄目か。
「いっ!! い、やぁ!!」
「そんなに嫌がらないでよ。メリル僕のお嫁さんになってくれるって言ったじゃない。なら、僕の事受け入れてよ」
「誰が!! アンタがこんな奴だって知ってたら絶対そんな事思わなかった!! 最低最悪の変態野郎!!」
「口が悪いなぁ? メリルだって本性隠してたんじゃない。酷いね? だったら最初から隠さなきゃ良かったのに。そうしたらティファの代わりに君を選んだりしなかったかもよ?」
「・・・・・・・え?」
「あんなに綺麗なのになぁ? 全然僕になびかないんだもの。しょうがないから諦めたよ? でも、最初の目的は達成出来そうで良かった。ありがとう、メリ・・・」
僕は、その日メリルを壊して目的を達成するつもりだったんだ。
メリルが、あんな顔をしなければ。
「・・・・・・うそつき・・・」
僕は、メリルが僕が彼女にした仕打ちよりも、僕が口にした言葉に深く傷付いたのだとすぐに気が付いた。
メリルは涙を流したのに、そこから全く抵抗しなくなった。まるで人形のように全く反応しなくなった。
僕は表面上では笑っていたけれど、それにとても苛立った。メリルが僕のする事に全く反応しない。
その事がとても許し難かったんだ。
「マチェスタ!? 何をしているんだ!! 今すぐその子から離れなさい!!」
お陰で僕はメリルを壊し損ねた。
しかも、父様は慌てていたのかドアの鍵を閉め忘れたらしい。
「どきなさい」
その声を聞いた時、僕は一瞬死を覚悟した。
地を這うような、それでいて凍て付いた氷が身体中を通り抜けるようなそんな声だった。
その死神は僕を通り過ぎると、そのままメリルの記憶を書き換えていた父を斬り裂き僕を睨みつけた。
「貴方の事、今日は見逃してあげます。でも、次私達に何かする素振りを見せたら皆殺しにします。仲間を呼んでも無駄ですよ? 私達強いので」
僕は何も言えず、その場に立ち尽くしたままメリルが連れて行かれるのを見ていた。
ティファの苦しげな表情を見ても全く満足出来なかった。それどころかメリルが僕を見ない事が胸をざわつかせた。
僕の事が憎いよね?
殺したい程。
だったらそう叫んでメリル。
僕の事を許さないと言って。
こいつが犯人だと、ティファに言ってごらんよ。
今なら、まだ間に合うよ?
それに今、目の前で僕がティファに殺されたら、君は僕の事を忘れられなくなるんじゃない?
「・・・・・メリル」
メリル。
こっちを見て。
「・・・・・メリル!!」
そうだよ。
僕の方を見て。
君をこれほど傷付けた僕を、見逃しては駄目だよ?
「・・・・・・あな、た。・・・ダレ?」
・・・・・ナニヲイッテイルノ?
「二度と姿を現さないで下さいね? その時はメリルに会う前に私が殺します」
「は、ははは・・・・・」
この男も何故、本当の息子ではない僕を助ける為にここまでしたんだろう。
お前の息子は、生まれついての人格破綻者だ。
でも彼はその片鱗を見せる前に寿命で亡くなった。
彼にとってそれは幸せだったのだと僕は思う。
それなのに、お前達はこんな形で僕を残した。
なんの罪もなかったぼくを生贄にした結果にさぞかし満足しただろう。
「最期の最期で余計な事を・・・本当に、おぞましい生き物共め」
どうして?僕は、確かにメリルをこの手で殺せなかったけれど、目的は達成出来た。
メリルを傷付けティファの鉄仮面を剥がす。
僕は自分の欲求に忠実に行動した。
それなのに、何故こんなにも虚しいんだろう。
「・・・メリル・・・」
父様の所為でメリルは僕を一時的に忘れてしまった。
今から追いかけても僕ではティファからメリルを奪う事は出来ない。メリルの家族は強すぎる。
それに、きっと直ぐに何処かに隠れてしまって、見つける事は叶わない。
「ひぃ!? な、なぜ・・あ、あなた。 誰か、誰かぁあああ!!」
とにかく、メリルを探そう。
探してまた必ず手に入れる。
そうすれば、きっと僕は満たされる。
「いやぁぁぁあ! あなたーー!」
約束だからねメリル。
僕が迎えに行くまでちゃんと生き残って。
そして、いつかきっと、もう一度君に会いに行く。




