ディアナの誤算
いや、まさかな?
私もこんな事になるとは思わなかったんだよ。
「子供の頃の友人があそこで勤めていたのだ。メリルの事件の時、そこの仕事を辞めてこちらに来いと言ったのだが、恩があると言って今だに屋敷で働いている」
きっかけはリディ様のこの言葉からだった。
バーゼルハイム家に使用人として勤めているリディ様のご友人。
正直あまり関わり合いにはなりたくなかったが、私は彼の勤める家のご令嬢カロレッタと会う約束を取り付けた。
そして、久し振りに会ったカロレッタは私の知っている彼女ではなかった。
この時点で私の第六感が働いた。
もしかしたら、全て仕組まれた事ではないのか?
「折角おこし頂いただいたのに、申し訳ありません。魔術師様の事件以来お元気がないのです」
元気が無い?
そんなものじゃ無いだろう?
あれは最早、別人だ。
「そうなのですね? それは心配だ。しかし、思ったより体調が良さそうで安心したよ」
カロレッタ以外の家族か、周りの人間。
例えばこのマチェスタという男。
「是非またお越し下さい。お嬢様もお喜びになります」
この男は、怪しい。
それから、度々彼を見かける度に彼の様子を伺っていた。
リディ様には言わなかった。
彼はマチェスタを信じている。
それに、思い違いという可能性もある。
しかしあの日。
あの男は怪しかった。
そもそもマチェスタを見かける場所が毎回異なっている。
リディ様に会いに来るだけならば毎回同じ通路を通ればいい。宮廷内にはマチェスタの知人もいないようだ。
彼はその日アースポントの部屋から出て来た。
そして、真っ直ぐリディ様の所へ向かったんだ。
私はそれを、ずっとつけていた。
恐らく私は、あの男に警戒されている。
だから私が尾行していた事を知られたくはなかったんだ。
それなのに、あのタイミングでアズニール殿は現れた。
彼は確かアトレイア様の頃からここにいる騎士隊長だと自分の記憶を掘り起こしつつ、彼が私に気付いてこちらに声を掛けられる前に彼を確保した。
「・・・・ディアナ様・・・」
「静かに」
事情を詳しく話す余裕もなかったし、そもそもまだ確証がなかった。しかし私の勘は彼が主犯だと告げていた。
「陛下。陛下が私などに気安く話しかけてはなりません。周りの目もあります。私はまだバーゼルハイム家の使用人なのですよ?」
「だから、いい加減そちらを辞めて私の所で働け。お前はとても優秀だ。あの家には勿体ない」
「何度も申し上げておりますが、私はバーゼルハイム家に大きな恩があります。旦那様も、魔術師様襲撃の件は私がお嬢様を庇うために嘘をついたのだと思って下さっておりますので、心配ありません。それに、その方が貴方も都合が良いのでは?」
「・・・・彼女の暴走を止めてくれるのは有難いが。私は純粋に、お前の能力が欲しいんだ。お前は、頭も良いし、魔力も強い。それなのに、公爵家の使用人として使われるなど宝の持ち腐れではないのか?」
そうじゃない。
バーゼルハイム家にいた方が都合がいい何かがある。
彼はきっと目的があって、あの家から離れない。
「そんな事はありませんよ。私はとても、充実した毎日を過ごしております。元々人の面倒をみたり、育てたりすることが好きなので。それよりも、私はとても大事な魔術師様を危険な目に遭わせてしまった事をいまだに悔やんでおります。もう、あの様な事がないよう目を配っておきますので」
「・・・そうか。だが、私はいつでもお前を受け入れるぞ? マチェスタ」
「はい。ありがとうございます」
やばいな。
こちらに向かって来る。
逃げ場はないし、隠れる場所も。
いや確かこの場所は恋人同士が仕事を抜け出し隠れて会う場所として有名だったな。
テニアが女官達と楽しそうに話していたのを前聞いた。
ふむ?
「アズニール殿、恋人はいらっしゃいますか?」
「は? いないが・・・なんっ・・」
彼には申し訳ないが、恋人が居ないのならいいだろう。
それに、彼は大人の男性だ。これぐらい、なんともないだろう。
緊急事態だから許して欲しい。
「・・・・・アズニール? と・・・」
「リディ様」
「や、すまん! つい声を掛けてしまった。邪魔をしてすまない」
お? これは上手いこといったようだ。
マチェスタもちゃんと誤解してくれたようで助かる。
「ちょっ! リ・・・・」
こら! 折角早々に立ち去ったのに貴方が追いかけたら台無しだ。困る。
「まだ行くな。もう少し付き合え」
それにしても、この男。
いい歳してなんなんだこの反応。
女性にキスされたなら、もっとスマートに対応してみせろ。そんなんじゃ女性にモテないぞ?
「離れろ! なんなんだ一体!」
「アズニール殿はどう思う?」
「は?」
「・・・・いや。あの男、何故未だにバーゼルハイム家にいるのだろう。カロレッタならば激怒して追い出しそうなものなのに・・・それに、こうやって定期的にリディ様の前に現れる・・・前々から気味が悪いと思っていた」
アズニール殿はどう思っているか気になって聞いてみたのだが、彼はそれどころでは、ないらしいな?
「その話はまた後でゆっくり聞きます。で? 貴方俺に何か言う事があるのでは?」
「ん? なんだそんな怒った顔で。恋人はいないのだろ?」
「なんですか? 欲求不満でらしたのですか? 公爵家令嬢殿?」
あきれた。駄目だな、この男。
全然スマートじゃない。
しかしまぁ、真面目なのはわかった。
「そうだな? 久し振りにキスしたが、想像以上に良かったな? もう一度してみるか?」
緊急時とはいえ確かに私も悪かったと思っている。
相手は事情を知らないのだから、困惑するのは分かるのだが・・・・。その後のアズニールの反応が、正直私のツボだった。
「こ、断る! 貴女は自分の立場をお忘れか?」
「冗談だよ。面白い人だな? いい歳の男性で独身だから構わないかと思ったが、もしや初めてではないよな?」
「当たり前だろ!! 俺をいくつだと思っている! 貴女より大分歳上だぞ!」
そもそもそんな真っ赤な顔で睨まれてもな。
なんだこの人、可愛いな。見た目がではないぞ?
反応がいちいち面白い。
「では、キスくらいでギャーギャー騒ぐな。まぁ、今ので誤解はされたろうが。もし、何か言われたら一方的に私に追い回されていると言っておけ」
「は? な、何故です?」
「悪いな。私に好きな男がいると知ればリディは私を無理に妃や側室には迎えない。その可能性は出来れば残しておきたくないのでな?」
「ーーーっな!」
これは、冗談のつもりだったんだが。
「じょ、冗談じゃ・・・」
「本当は綺麗な女性が相手ならとても嬉しかったのだが、それだと可哀想だろ? 相手の女性が」
絶句だな?
なんだか可哀想だが、それよりも自分で言った事がとってもいい案だと思えて来た!
このまま皆、誤解してくれれば、全て丸く収まるのでは?
なんて適当に考えて行動した結果がコレだ。
今度こそ完全に嫌われたな。
「ディアナは何気に恋愛下手ですわよね? もっと割り切れば宜しいのに」
煩いアグーの生まれ変わり。
クララに恋愛を語られたくない!
「ディアナも顔はそれなりに綺麗ですのに。立ち振る舞いが完全に男性ですものねぇ? それでいつも男性から引かれるのですから、直したら如何です?」
「今更直したところでなんになる? 」
それに、私が女らしく振る舞えたとしてもアズニールは私を好きにはならないだろうな。
意外に一途でビックリしたぞ。
酔っていたとはいえ、他の女の名を呼ぶとはな。
それにショックを受けた自分自身に、私はかなり驚いた。
いつの間に彼をそんな風に見ていたのだろうな?
「それで? 今度は彼を避けているんですの? アズニールは大迷惑でしょうね?」
うるさいな。
あんな事言ってしまって、私もかなり動揺している。
どうしたら良いのか分からないのに、誰にも相談出来ないんだ。ここの連中は誰も当てにならない。
特に、恋愛面に関してはなぁ。はぁ。
【ディアナは溜息を吐く】
辺りからの話です。
ディアナはいち早くマチェスタを疑っていました。




