アズニールの苦悩
俺は何をやっているんだろう。
「・・・アズニール殿? もう、起きてたのか?」
「大丈夫ですか? 昨日呑み過ぎて潰れたんですよ」
「そうだった。迷惑をかけたようだな。すまなかった」
「ちょっ! そのまま起き上がらないでくれ! 」
今、俺の前であられもない姿で起き上がろうとしているこの女はディアナ・エルネビィという、宮廷で働く公爵家のご令嬢だ。嫁の貰い手がなく本人もその気が無い為、宮廷官吏として働く事にしたらしい。
俺は宮廷内がマチェスタに襲われた日、この方とバッタリ遭遇してしまったんだ。本当にツイていない。
それで、まぁ・・・その直後、宮廷で異変が起こり俺達はマチェスタが宮廷のあちらこちらに仕掛けた術を片っ端から壊す作業に移った訳だが、あの日以来、ディアナ様はやたらと俺に絡んで来るようになった。
「どうせもう全部見たのだろ? 今更恥ずかしがるな」
「見てない! 貴女が寝ぼけながら脱いだのだろうが! 早く服を着てくれ!」
この女、本当にとんでもない。
昨日だって仕事が終わって明日は休日だと意気揚々とやって来て、行きつけの酒場に連れて行けと、しつこく纏わり付かれた。見兼ねたアニラ様が一度ぐらい付き合ってやれというので渋々連れて行けば・・・。
「アズニール殿には負ける気がしないな? 貴方はそんな見た目で、実は酒に弱そうだ。絶対私より早く潰れそうだな?」
何故か挑戦的な態度で挑まれ俺も些かムキになった。
「女に負けたりはしない」
俺の、悪い癖だと思う。
多分その一言がディアナ様の癇に障ったんだな。
「ほぅ? では勝負しよう。私も貴方に負ける気はない。何かを賭けるか?」
「ハッ! ご冗談を。勝負にもならない」
結果? 結果を知りたいか?
勝負はな、つかなかった。
お互い酒に強過ぎた。
それがまたいけなかった。
「凄いなアズニール! 私について来れたのはお前が初めてだぞ!」
「ディアナ様こそ。正直驚きました」
酔っていた。
俺達は物凄く酔っていたんだ。
だから、あんな事・・・・。
「もう振り向いても大丈夫だ。薬湯もありがとう」
「いえ、それより。屋敷に知らせなくても大丈夫ですか?」
「ああ! 皆慣れているからな? 飲みに行くと言ったから大丈夫だ」
貴女仮にも良家の娘だよな? なんでそんな自由なんだ?
普通は一人で出歩くのも許されないだろが!
「私の事は気にするな。父も母も私の事は諦めている。それに、両親には私が女が好きだと言ってあるからな?」
とんでもない娘だな。
俺が父親なら号泣する。
ん? 待てよ? なら何故男の俺に絡んで来るんだこの人。
「動けますか? 今のうちにここを出た方がいい。人に見られたら変な噂が立ちます」
「・・・・私と噂されるのは、迷惑か?」
迷惑だ。
ただでさえチャラチャラした部下達が俺を揶揄う材料を与える気はない。
「リディ様の件は解決したのでは?」
「それは、微妙な所だな。クララ次第だ。それに私は貴方を結構気に入っている」
気に入らないで欲しいぞ。
アンタのお遊びに付き合う気はない。
「もう貴女とは呑みませんよ。元気になったなら出て・・・・」
俺は、何故こう昔から女に振り回されるのだろう?
一体俺が何をしたって言うんだ。
そしてこの女は何故、また俺に抱きついて顔を近づけてくるんだ!!
俺だって健康な男なんだぞ!
昨日の夜、俺が理性を保つのに、どれだけ苦労したと思ってるんだこの女。
「・・・・いい加減にしろよ? 人が大人しくしていれば・・・簡単に男にこういうこと、するんじゃねぇよ」
そうやって一介の騎士を揶揄ってアンタらは楽しいだろうがな? 俺は不愉快なんだよ。
人を道具みたいに扱ってると痛い目みるぞ。
「ベロニカ」
「・・・・っ!」
「私がベロニカでもお前はそう言えるのか? 貴方が言っているのは綺麗事だ。貴方が私を拒むのは、ただ面倒だからだ。そうでなければ昨夜、私を抱いただろ?」
この、女。
何故、彼女の名前を? いつ俺はベロニカの名を口にした?
「ご都合主義なのはお互い様だろう? 私は別に貴方に私を引き取って欲しいとは思っていない。あと勘違いするな、人を馬鹿にし、下に見ているのは私達ではなく貴方達だ」
「・・・・何を言っているんです?」
「売れ残りの貴族令嬢が恥ずかしげもなく宮廷で働くことを嘆かわしいと思っておいでなのだろう? 貴方のようなタイプは頭が硬いからな? その上、陛下の寵愛さえ受ける事を拒むとは、産んでくれた両親に悪いと思わないのか、ぐらいは思ってそうだな?」
いきなり、なんなんだ?
怒っているのは俺でディアナ様は怒らせた側の筈なんだが? 何故言ってもいない事で俺が責められているんだ?
「もしや、昨夜俺が何か失礼な事を口にしたのですか?」
「・・・・いや、すまない。私がどうかしていた。まだ少し酒が残っているのかもな? 今日はもう帰るとする」
「ディアナ様?」
おい。もしかして本当にまだ酒が抜けていないのでは?
少しフラついてるぞ。
「まだ酔いが覚めていないんですね。すみません気が利かず。完全に覚めるまで休んでいて下さい」
「いや大丈夫だ。慣れている」
大丈夫じゃないだろ。
これは、まだ酔いが残っていそうだ。
「気分を害されたのなら申し訳ありませんでした。俺は気が回る人間ではないので。どうか気にせずお休み下さい」
「しつこい人だな? 大丈夫だと言っているだろう? そこを退いて欲しい」
面倒だ。
非常に面倒で厄介で関わり合いたくないんだけどな。
「・・・ひょっとして、昨夜俺が貴女に手を出さなかった事、怒ってるのか? 」
もう、そこそこ関わってしまっている上この状況。
このまま一人で返したらもっと面倒な事になりそうだ。
「これでも私も女なのでね? 多少は傷つく」
・・・・・・贅沢は言わない。
もう少し、普通の女性と出会いたい。
いきなりスライディングアタックを食らわせて来たり、強引に酔わせて襲おうとする痴女ではなく・・・。
「誤解しないで頂きたいのですが、私は恋人にしか手を出しません。貴女に魅力が無いわけではない」
「・・・恋人になれないから、こんな形になったのだが?」
「・・・あの、会話が成り立っていない気が。貴女は一体何がしたいのですか?」
この人と関わるようになり数ヶ月、俺は何故彼女が俺に纏わり付くのか分からない。
「アズニール。もっと私を見て欲しい」
分からない。
この人一体、俺の何がそんなに気に入ったんだ?
あと、動揺するな俺!
これは絶対、何か裏があるはずだ!
そうでなければ、こんな事は起こり得ないに決まっている!これは罠だ。 そうだ、 そうに違いない!




