閑話*テリアーゼとベルシャナ
[テリアーゼ。私の声が聞こえる?]
その小さな存在は、私が愛しいあの子を授かった瞬間に現れた。私のお腹の中に新しい生命が誕生した、その瞬間に。
[貴女は、私の話聞いてくれる?]
その小さな存在は、元々はカスバールの地に息づく小さな生命体。前の精霊が残していったこの地への加護だった。
前の精霊が役目を終え新しい精霊が生まれたその瞬間に精霊は哀れな一羽の鳥に掴まれてしまった。
しかも、その鳥はこの世界の歪みが原因で誕生した異生物だったらしい。
彼等は、その精霊の種をただの綺麗な光る石だとでも思ったのだろう。きっと好奇心からか、それともたまたま目に入り興味が湧いたのか。兎に角悪気は無かったのだと思う。けれど、それは禁断の果実だった。
結果、カスバールは大事な精霊を失い。
サウジスカルは厄災を抱え込む羽目になった。
そして、バランスを崩したこの世界は徐々に歪んで行った。知らぬうちに、他国をも巻き込み、何千年かけて。
そして、哀れな異生物は自分が救われる方法もわからないまま、この世界に放り出された。
彼がそこでしたのは、自分の子孫を残す事。
そして、その子孫にカスバールを統治させた。
死ぬ事が許されなかった彼は、ずっと近くでそれを見て来た。そして、ある時やっと気が付いた。
サウジスカルに奪われた精霊が消えなければカスバールの精霊は誕生しないのだと。
そして、思いついたのはサウジスカルを滅ぼす、という選択だった。
その為に彼は自分の子孫達を操ろうとした。
けれど、それは見事に失敗した。
ベルシャナ・ディムレムが、その事に気付いたのだ。
彼は、恐らく、この世界を、愛していた。
永きに渡るカスバールの荒廃を救って来た自分の先祖。
そして、両親や姉。
彼等が全てを賭けて守って来たものが何であったかを知った時。彼は、壊れた。
「何故、私達が精霊達の都合に振り回されなければならない? 他の国を滅ぼしてこの国を救う。そこまでの価値がこの国にあるか? 私達が何をした? 何もしていない!それでもディムレムは疑う事なくこの国を守って来た。身を削り、命を賭け、その役目を継いで来た。時には愛する者さえ手にかけてでも」
彼が何故あれ程非道な行いが出来たのか。
誰かに対する復讐だったのか、それとも、本当は・・・。
「それなのに、聞いたか? 一羽の鳥が精霊を他の場所に運んだ・・たったそれだけの為に、それだけの為に!! しかも、それを救う為に私達に人ではない者になれと言う! 誰が渡すものか!奴等に与えてやるくらいなら自らの手で殺してやる! せめて人としてその生涯を全うさせてやる!」
苦しみの中で彼はずっと助けを求めていた。
人を傷付けながら、早く終わらせてくれと願っていた。
もう、誰にも奪われたくないと、彼は叫び続けていた。
「何故、誰も・・・私を殺しに来ないのだ!!」
私は、彼の願いを叶えようと思う。
「ベルシャナ様」
私は、父デガルドの事をずっと誤解していた。
あの人はベルシャナから逃げ出したのだと。
逃げ出すくらいなら何故、殺さなかったのかと思っていた。でもその時、私には分かった。
この方を救わなければ。
「ずっと、お一人にして申し訳ありませんでした。今、貴方のお側に参ります。そしてまた、少しお側を離れますが、どうぞお許しください」
「何を言っているのだ? 何をする!」
彼は、始祖を体に寄生させていた。
その状態で精霊にならなければ始祖は救われない。
でも、彼がベルシャナの中にいる限り、ベルシャナもこの国も救われない。・・・・だから。
「貴方の苦しみを取り除いて差し上げます。どうか、この国をお救い下さい。我が王」
「よせ!! テリアーゼ!!」
ベルシャナから彼を切り離し、それが私の中に入って来た時。小さな子供の声がした。でも、一瞬だったから誰の泣き声だったかは分からない。
そして、私はそのまま目を閉じた。
これは、テリアーゼが人間だった頃の記憶の一部。
「ねぇ。いい加減僕と付き合ってくれてもいいと思う」
「何言ってるの? 一度相手をしたぐらいで調子に乗らないでくれる?」
「ええー! そうなの? テリアーゼそういう人? 僕本気だったのに!」
馬鹿ね。貴方自分の立場分かってる?
こんな事知られたらお互いただじゃ済まないわ。
でも、それが分かってて許した私も大概ね。
「好きなんだ。君とずっと一緒に居たい」
ええ。私もよ?
でも、ごめんなさい。
きっと私には貴方の願いを叶えられない。
貴方と家族は作れないわ。
私は、この国の騎士だから。
いつか貴方を置いて行く。
「数年後に同じ事が言えたなら、考えてもいいわ」
愛してるわデズロ。
精霊に愛され、人を愛する貴方を守りたい。
「本当に? じゃあきっと僕達、結ばれるね?」
「本当、懲りない人ね」
貴方と出会えて良かった。
だってそのお陰で私、この手で貴方の子供を抱っこできたもの。父に孫を残せたもの。
いつか、貴方もあの子を抱っこ出来るといい。
精霊の守り人。
デズロ・マスカーシャ
どうか、あの子を導いて。
そしていつか、この世界が救われる事を願っているわ。




