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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第2章メリル動く
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アトレイアはリディに残したい

セルシス陛下は普段デズロの様な喋り方をしますが、公式の場では皇様らしく振る舞います。当たり前ですが。


エルシャナ、セルシス、ケルベナはエルハドの愛する子供達で大の仲良し兄弟です。

「お初にお目にかかる。サウジスカル帝国皇帝セルシス・レインハートと申す。こんな形で挨拶を交わすことを、どうか許して頂きたい」


「いや。此方こそ長年の間そちらの国の民に要らぬ心労と苦労をお掛けした。和平が結ばれた今、お互い協力し合い歩み寄る事はやぶさかではない」


リディはまだ登極して間もないというのに、すっかり皇帝としての役割が板に付いて来たな。

本当に、立派なものだ。


「そう申されますが、こう立て続けに此方の都合でそちらの国にご迷惑をお掛けしているのだ。微力ではあるが我等にカスバール復興の協力をさせて頂きたい。実際問題、メリルが居なくなる間一番困るのは魔力の枯渇なのだろうか?」


「いや、その点は落ち付いている。デズロ様のアースポントもある。そもそも精霊が誕生してから、魔力は安定しているのだ。問題は、メリルがこの国を出る事で、この宮廷の者達が動揺し、良からぬ事を起こす可能性がある事だな。だから、申し出は有り難いのだが、私達自身でなんとかするしかないだろう。どの道いつかは通る問題だ。お気遣いは感謝する」


「・・・・・成る程? どこの国でも、起こる問題はそう変わり無いな。・・・そうか。では、私の判断は強ち間違いではなかったか。実はメリルが親善大使として此方に来る間、こちらからも、カスバールに大使を送ろうと考えていた。と、いうかもう、そちらに向かっている」


それは、つまりメリルと同格の人物をこちらへ送ったということか? しかし、一体誰を? まさかデズロだろうか?


「・・・それは、有り難いお申し出ですが、一体どなたを?」


「メリルの代わりには些か物足りないかも知れないのでその分二人送っておいた。私の兄と弟だ。国を立て直す手助けに少しは役立つと思う。好きなだけこき使ってやって欲しい」


「・・・・・・ちょっと待ってくれ。聞き間違いだろうか? 今、殿下が二人もこちらに来ると聞こえたが?」


「私が言うのもなんだが、我が兄弟はとても優秀だ。数々の困難を子供の頃から経験している為、今の貴方がその二人から学べる事はとても多いと思う。メリルが無事そちらに戻った事を確認した後、こちらに返してくれ。惜しくなっても引き止めたりはしないで欲しい。私にもあの二人は必要不可欠なのでな」


これが、メリルがカスバールを発つ前に鏡越しでされた両国の内密な会談だ。それにしてもとんでもない人質が二人も寄越されるものだな。


皆、本当に二人が到着した時、しどろもどろしていたぞ。


正式な他国の賓客など、いつぶりだ?

デズロ達の訪問がおふざけだったと実感しただろうな。


「今回は我が国の変事解決の為、貴重な人物を我が国にお貸し下さった事感謝致します。私はエルシャナ・レインハート。セルシスの兄で今は陛下の補佐をしております。こちらはケルベナ。彼も同じく我等の弟で陛下を側でお支えしております」


「・・・・話は、聞いている。サウジスカルに無くてはならぬ二人にわざわざ起こし頂けるとは、過ぎた僥倖だな」


そうだな。

しかし、相手の国がメリルの存在がそれに価する人物だと認め、此方の国に最大の敬意を払ったと分かりやすく示して来た証だ。・・・先手を、打ってくれたのだろう。


「こちらでも我等の学ぶべき事は多くあるでしょう。リディ様。短い間ではありますが、どうかこちらの事を色々と学ばせて頂けると有り難いです」


メリルが居なくなって狼狽えていた者達がこれで落ち着くと良いがな。そう、簡単にはいかないか。


「アトレイア様も。デズロ様からお話は伺っております。どうぞ、ご指南の程宜しくお願い致します」


「老体の私で役に立てるのであればな」


「ご冗談を。まだまだお若いではないですか。貴方の落ち着きを我が父に見習って頂きたいものです」


嫌味かそれは?

まぁ、エルハドは確かに暴れすぎではあるがな?


面白い者達だ。エルハドが私の事を嫌悪しているから、私には関わって来ないと思っていたのだが、そこはやはりちゃんと割り切っているのだな。エルハドが子供なだけか、デズロが関わると冷静で居られないだけなのか。


「では、客室にご案内致しますので、そちらでごゆるりとお休み下さい。着いたばかりでお疲れでしょう?」


「アトレイア様はこの後ご予定が?」


「いや・・・私は、政務にはもう関わっていないのでな」


「では、恐れながら早速、私にこちらの事を教えて頂けないでしょうか? 」


「・・・私は構わないが」


リディはどうだろうな。

私が関わるのは嫌だろうな。


「では、アトレイア様。エルシャナ様のお相手をお願い出来ますか? 」


「ありがとうございます。では、ケルベナはリディ様の職務のお邪魔にならないよう我が国の詳しい現状のご説明を。あと、デズロ様からのお土産をお渡ししてくれ」


「はい。デズロ様からリディ様宛にお預かりしている物がございます。個人的なもの故、ここではお渡し出来ないのですが」


「そうか。では、一緒に執務室に来てもらおう。ヒューズお前は暫く外れてくれ。用事が済んだら後で声をかける」


「・・・・・かしこまりました」


食ってかかるかと思ったが、宰相にしては大人しいな。

メリルを彼方へ行かせると言った時は鬼の形相で反対していたものを。


「では、宮廷をご案内頂けますか?」


「ああ。では、こちらだ」


やはりまだサウジスカルに対する不信感が拭えないか。

皆私と同じく、デズロに助けられていた者達だからな。


「父から話は伺っておりましたが、決して良い環境とは言えませんね。リディ様がどれ程力を尽くしても、これでは滞りなく政務がなされないでしょう」


「遠慮ない指摘だな。やはり、リディは皆に信用されていないのだろうか?」


そんな事はないと思う。

リディは、メリルの力を借りたとはいえ、自ら動きこの国を上手く動かしている。ただ、リディに従う者が少ないのだ。その、理由が分からない。


「・・・・リディ様に問題があるのではない。問題があるのは、貴方達です」


「どういう事だろうか」


「・・・・貴方達は真実、この国の事を考えておいでなのか? 貴方もあそこにいる宮廷官僚もリディ様の言葉に耳を傾けていなかった。それに誰一人私の言葉に反応しなかったのです。突然現れた他国の皇族が、太上皇の貴方に指図するなど無礼極まりない行いをしたのにも関わらず」


そうだろうか?

私は退位した身だ。大事な責務を放り出したのだ。

皆私の事など気にしていないのではないか?


「貴方が真にこの国の事を考え、その役目に自分よりリディ様が相応しいと思い、その役目を引き継がせたのであれば皆これ程リディ様を侮りはしないでしょう。ここの者がリディ様でなく、メリルに依存するのはその為です。貴方は、またデズロ様のような人間を作り出すおつもりか?」


やはり。私が悪いのだな。

だが、どうしたらいいのかわからないのだ。


「リディの邪魔はしたくはない。だが、どうすれば良いのか、わからないのだ」


何故、初対面の若造にこんな弱音を吐いているのだろう。

本当に、私は情けない人間だ。


「わからないのなら、一度喧嘩でもされてみたら如何ですか?」


「・・・何を言っているのだ。リディと喧嘩など。そもそも理由がない」


「貴方になくとも彼方はあるでしょう? そして、一度くらいは息子に本音を晒してみてはいかがです? 私達も喧嘩はよくします。そして、それを誰かが止めてくれる。そうやってバランスをとって来ました。そこから気付けるものもあります」


息子と喧嘩など一度もした事はない。

そうだ。私はリディの言葉を聞かなかった。

あの子が私にかける言葉は忠告や非難ばかりだった。


私は・・・・・・そうか。


「・・・私の態度が、皆に疑心を植え付けていると?」


「貴方は、もっと自分の立場の重要性を認識するべきです。リディ様が決断したのに、貴方が彼の足を引っ張ってはなりません。貴方は、我儘を言うくらいで良いのですよ」


私は、リディに認めて欲しかった。

ずっとあの子に肯定されたかったのだな。

本当に愚かな親だ。私は。


「もし、ナシェス様では止められないのであれば、僭越ながら私とケルベナで喧嘩を止めて差し上げます。止め方がサウジスカル風ですので、少々、無礼な扱いになるやもしれませんが、そこはお許し頂きたい」


私に出来るだろうか?

だが、それでリディの役に立てるのであればやるしかないだろう。私は、まだあの子に何も残せていないのだ。

死ぬまでに一つくらい、あの子に何かを残してやりたい。


私はあの子の、父親なのだから。

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