テットはどうにも出来ない
「テットはさぁ。誰か好きな子とか、いないの?」
「お前さぁ、この小さな村の中でそんな相手何処にいるの?」
アイツが子供の頃からあの娘に想いを寄せ続けて、その想いをやっと成就させた事を俺はよく知ってたからな。
二人が付き合うと知った時、素直に祝福した。
ただ、伯父さんの微妙な顔が気にはなっていた。
俺は詳しくは知らなかったけど、あの娘は何年か前、獣に襲われた所を俺の幼馴染に助けられている。その時アイツは大怪我をして、あの娘が暫く付きっきりで看病してた。
息子の気持ちを知っていたアイツの両親は二人をなんとかくっ付けようと、いらぬお節介を焼いていたらしい。
結局、伯父さんも最終的には彼女に考えてみてはと進めたらしかった。兎に角、それから二人は付き合い始めた。
俺? 俺は全面的にその辺りには関わってない。
とくにアイツから何か言われた訳じゃなかったし、本人達が納得して付き合うならいいんじゃないかと思ってた。
例えあの娘が、俺の事好きだったのだとしても。
「テット・・・・アイツは、助けないで欲しい」
その言葉を聞くまでは。
「テット。殺しちゃ駄目だよ。足や手も切り落としたりしないで。動けないよう怪我をさせるのは大丈夫よ。全部私が綺麗に治してあげる!」
「心強すぎて涙が出そうッス。メリル様!!」
こんちきしょう。
こんな事ならもっと早く押しかけるんだった。
自殺覚悟とか笑えねぇな!
「ウォオオオオオオオン!」
殺すのは簡単なんだ。
でも、今回はそういう訳にはいかない。
例えアイツの頼みでも、それだけは聞き入れられねぇな?
「テット!メリルちゃん!!」
アイツが獣化して自我を失う直前、アイツは俺にあの娘を助けるなと言った。多分、俺とあの娘が結ばれるのが許せなかったんだと思う。俺はその言葉を無視して彼女を助けた。彼女の気持ちも、アイツの気持ちも完全無視だ。
だってそうだろ?
お前らが俺の気持ちを完全に無視してんのに、なんで俺がお前ら二人の願い叶えなきゃならないんだよ?
俺は、この村の住人が大切だった。
このカスバールで唯一俺の心休まる場所で、故郷で、愛すべき家族だ。俺は、この場所を守りたかった。
その為に俺は最善を尽くしたと思うぞ?
あの娘が俺を好きだと気付いても、俺にはどうにも出来なかった。俺は彼女から気持ちを打ち明けられた訳じゃないし、俺は彼女に恋愛感情はなかったからな。
だから、俺はそれ程悪くないと思う。
そう、思ってたつもりだったんだけどなぁ。
「押さえてテット!!行くよ!」
「任せろ!」
ウォンッーーーバチッバチバチバチバチ!!
痛ってぇ! 何だこれ? 身体中ピリピリするんだけど?
メリル?・・・・メリルさん!?
「まだよ。まだ・・・もっと、深く・・・」
おいおいメリル本当に大丈夫か?
やっぱり魔獣を触診するとか、無理だったんじゃ?
「やっと、まともな生活が出来るようになるのに、こんな所でくたばるんじゃないわよ! 男なんてなんぼなもんじゃい!いい男なんて星の数ほどいるわよ! 悔しかったら金持ちの超絶イケメン捕まえてリア充生活を謳歌してやれ!」
おーーーい?
それ、俺の従兄妹に語りかけてるのかな?
止めてください。無事助かったとしても、碌な人間にならない気がする! それに、メリルの体がさっきから異様なオーラを纏ってる。俺よりも体に負荷がかかってるんじゃないのか?
「人の目なんかどうだっていい! 後悔しながら死ぬくらいなら、笑って死ねるまで生きてみなさいよ! アンタは今、世界一運が良いんだからね?」
「・・・・・な、んなのよ・・・もう」
「そういえば貴女の名前聞いてなかった。私メリル。貴女の名前は?」
え? 今? この状況でそれ聞くか?
メリルって根本的に抜けてる気がする。
そんなんだから友達少ないんじゃ?
「・・・ハッ・・アンシィよ。・・・メリル」
「そう、じゃあアンシィ。引き上げるよ?」
眩しい!
ちょっと、眩しくて前が見えないっすけど?
あ、段々視界がハッキリとしてきた・・・・。
「テット! メリルちゃん・・・アンシィ!!」
「だぁああ! つ、疲れた」
「・・・お父さん」
「こ、これは。どういう事なんだ? 魔獣の体と娘の体が別々に?」
そうだよ。なんで同じ個体の筈の魔獣とアンシィが別々に存在してるんだ? メリルさん?
「説明するのは面倒だから聞かないで。簡単に言えばそのままの状況よ。アンシィと魔獣の組織を切り離した。そいつの組織を持ち帰って特効薬を作るわよ」
え? メリルさん? 貴女・・・いや、何でもない。あえて突っ込まない。ちょっと凄すぎて言葉が出てこない。
「他の村の人は根が見つからなかったから、今日はこのまま帰るわ。次来るまでに出来る限り当時の情報を集めておいてくれる? アンシィは暫く動けないと思うけど、命に別状はないから、ゆっくり休ませて。次に来る時に彼女も診察するわ」
あ、抱っこっすか? ハイハイ。動けなくなったっスね? この大きな物体どうするの? あ、後から兵士が来るんでしたっけ? ビックリするだろなコレ。
「腐らないよう凍らさせておくわ。おい、モテ男」
「・・・・はい? 何ですか?」
ゴスッ!!
イデェ! え? 呼んでおいて何故蹴られた? 理不尽!
「当然のように返事を返したわね。私は少し寝るけど、そのまま宮廷に向かって。全く、本当に世話がやける従者だわ」
「・・・メリルちゃん。なんだか、身内のゴタゴタに巻き込んじまった悪いな。娘を助けてくれてありがとう」
「気にしないで? タリッズさんにはお世話になってるし、テットは・・・・私の友人だからね」
「「え?」」
「・・・・・・・何? 不服なの?」
え?不服だぞ?
俺メリルの友人なの? なんだろ、まだ従者だって言われた方が納得出来る。俺、友人はちゃんと選びたい。
「あれ〜テット? そうだったのか?」
いや。知らない。
メリルがそう言うなら、そうなるのか?
俺は一度だってそんな事認めてないけどな?
「・・・・テット・・ザァマァ」
あのさ。皆、俺への仕打ち酷くない?
不服ではあるが、ちょっと俺にはどうにも出来ない。




