タリッズはメリルの本性を知る
「最近は全然薬入って来ないんだねぇ? あれ、とても効くから助かってるんだけどねぇ?」
「悪いなぁバァさん。アレはたまにしか入って来ない貴重な商品なんだよ。それに、この街にはちゃんと薬屋があるだろ? 大っぴらにアレで商売は出来ねぇんだわ」
「そうだろうがねぇ。あの湿布薬、とてもいいんだよ?」
そりゃあそうだろうよ。
だけど作ってる本人見たらバァさんきっとビックリするぞ? あんなちんまい女の子が薬作ってるんだもんなぁ。
随分前に宮廷から配給されたあのポーションもあの娘が作ったって知った時は納得したね。
流石皇様に目をかけられてるだけある人物だよな〜。
あの娘の薬評判が良すぎて入った瞬間毎回完売するもんな。
「こんにちは〜! タリッズさん元気?」
お! 噂をすればメリルちゃんじゃないか!
もしかして薬持って来てくれた?
「おや? 可愛いらしい子だねぇ? テットの彼女かい?」
「あはは! それはないよ? 冗談はよして?」
「あはは! メリル様。なんで即否定? しかも全力で? 俺もしかして嫌われてるっすか?」
相変わらず仲良いな? その夫婦漫才みたいなの毎回飽きないぞ。恒例行事になりつつあるな。
「ごめん仕事中だったよね? 終わるまで待ってるよ」
「いや、その人湿布薬が欲しいらしいんだ。だから構わない」
「あ、そうなの? じゃあコレ。持ってくるの大分遅くなっちゃったもんね。お婆ちゃん運が良かったね? 丁度商品入荷する時に来れて」
「おや。そうなのかい? アンタがこの薬を運んで来ているのかい?」
おいおい。いいのか?
メリルの薬の情報は誰にも知られない様にするんじゃなかったのかい? テット止めなくていいの・・・あ、開き直ってるな、ありゃ。
「うん。私だけじゃないよ? 交代で薬を運んでるの。ほら、コレ質が良いから途中で盗まれる可能性あるでしょ? それを防ぐ為にね? まぁ自称強い護衛がついてるからその心配はあんまり無いんだけど念の為人を変えて運んでるんだぁ」
「成る程ねぇ。お嬢ちゃん小さいのに大変だねぇ」
「どんな仕事も大変だもんね。あ、湿布薬何枚欲しいの?」
本当に、メリルちゃんの薬効くんだよなぁ。
でも、やっぱりあの子には効果が出なかった。
医療院にも連れて行ったが、原因は不明だ。
・・・・やはり、昔の病気の副作用か何かなんだろうか。
「代金はいつもと同じで構わないかね?」
「あ、ああ。毎度!」
あの子の具合が悪くなって、もう一年経とうとしている。
お金も貯まって来たし、そろそろ本気であの子の事を考えてやらないといけないだろう。
あり得ないと思うが、万が一またあの病気が再発でもしたら・・・・いや、そんな筈はない。
あの時から今まで、病気が再発したという話は一度も聞いていない。あの子は、完治した筈だ。
「じゃあコレ、今回販売する薬。それと今回娘さん用の薬は持って来てないんだ」
「そうか、構わないよ。寧ろ毎回悪いと思ってたんだ。いつもありがとな、メリルちゃん」
どれも効果がないのなら材料が無駄になっちまう。
次から俺の娘の薬は断ろうと思ってたところだ。
「うん。だからね、いい加減娘さんに会わせて欲しいの」
「・・・・・うん? どういう事? 会うって、俺の娘に?」
いや、そりゃ無理だよメリルちゃん。
うち、ちょっと訳ありだからなぁ。
テットも黙ってないでなんとか言ってくれないか?
「ずっと具合が悪いんでしょ? 直接会って私が娘さんを診るわ。あとこれ、拒否権はないよ?」
拒否権がないって、一体どういう事なのかな? メリルちゃん?あと、見るって何を見るの?
「伯父さん悪い。ずっと黙ってたんだけど、この人超優秀な医療魔術師でもあるんだ。・・・俺達の村の事がバレた」
おい、そんな話聞いてねぇぞ。お前勘弁しろよ。
「俺は会わないからさ、メリルだけでも・・・」
「駄目よ。あんたは私の騎士なんでしょ? なら一緒に来て。タリッズさん、これは既に貴方達の村だけの問題じゃ済まされないと思う。昔感染して処置を受けた患者から、再発の可能性が高い病魔の根を発見した。処置が遅れて消しきれなかった物だと思われる」
「「え?」」
嘘だろ。
いや、薄々・・もしかしたらとは、思ってはいた。
娘の肌の色が段々と黒く変色する様子を見て。
だが、認めたくなかったんだ。
あんな地獄は二度と味わいたくない。
「手遅れになる前に私に診せて。話を聞く限り、感染した患者の周りの人間は皆、病気に感染している。人から人へ感染する可能性が高い。一度感染して完治した人間には害はないけど、それ以外には移る可能性がある。もっと早く、私に声をかけて欲しかったんだけどね・・・まぁ、知らなかったから、しょうがない」
「君に直せるのか?」
「再発してなければ確実に。再発した状態で獣化してなければ、まぁ、八割程度。でも、完全に獣化状態になったら分かんない。毎回治す前に殺しちゃったから」
こんな事なら、もっと早くに現実から目を背けず、メリルちゃんやテットに相談すべきだったんだろうな。
だけどよ、そもそもテットに相談なんか、出来やしねぇからな。
「困ったな・・・メリルちゃん。実はうちの娘、ちぃと訳ありでさぁ。かなり面倒かも知れねぇんだわ」
「・・・・・テットと、何かあったの?」
いや、テットが悪い訳じゃねぇんだ。
悪いのは俺達村人全員だ。
「アイツの婚約者がその病気で亡くなったんだが、俺達村の人間はそいつの血で皆生き永らえた。完全に獣化したその子のトドメを刺したのが・・・・」
「血を飲んで症状が治まる事を発見した第1号が俺だったすよ? いやぁ〜恋人が殺されて血を抜き取られたら、そりゃブチギレるっすよね?」
テットはその責任全て背負って村を出て行ったからな。
そうしないと、あの娘が生きていられないと分かっていたから。
「へぇ? そこまでしたのに結局タリッズさんの娘はまた同じ病気に苦しんでるんだね? テット報われないね?」
なんだその言い方。いくらメリルちゃんでも、テットにそんな事言わないで欲しい。
テットは、俺達を助ける為に犠牲になったんだぞ。
「でも、勘違いしないで。事の経緯は今どうだっていい。問題は、病原が現在この街の近くに存在している可能性があって、それを防ぐ方法が定かではない事よ。タリッズさんは認めたくなかったのかも知れないけど、その所為で事態は最悪な展開を迎える可能性もある」
それは、人から人へ感染するから、だろうな。
だが、それは私も危惧してこの街から少し離れた小さな集落に娘を隔離している。
村の人間達と一緒に。
「テット。これはリディの、陛下の直々のご命令よ。当時の状況を知る者は全てを明るみにし、それを事細かに報告する事。病の拡大を防ぎ、その芽を取り除き早急に事態の収束に努めよ。つまり、それが出来ないのであれば、病の種を持つ人間は捕らえられ殺される可能性がある」
「・・・・・直ぐ、動いたんだな?」
「あったり前だろが! あんたらがチンタラ悩んでた所為で死ななくてもいい人間が明日死ぬかもしれない。アンタの罪は過去魔獣化した人間を殺した事でも、その血を飲んだ事でもない。おかしいと思った時点でなんとか出来たあんたらが行動しなかった、その一点なの!」
「ただの思い違いかも、知れないよ?」
すまない。
往生際が悪いよな。それは、理解出来ているんだ。
「それならそれが一番いいでしょうが! 事が起こってから行動なんてしてたら、最悪な事態を回避出来ない。娘が可愛いなら、傷だらけになろうが娘に嫌われようが構わず行動しなさいよ! 私の父親を見習え!!」
いや。俺メリルちゃんの父親がどんな人か知らないからな。そして、なんだろう。この子こんな風に怒るんだな?
ちょっとビックリしたなぁ。テットは慣れた様子だが、いつもこんな感じなのか?
「俺の娘、かなり頑なだぞ? 説明しても、治療を受けないかも知れない」
「あ、そうなの? あんまり抵抗するなら捕らえて処置するから大丈夫。陛下の命令だからね? 本人が嫌がっても完治させちゃうからね。そこんとこヨロシク」
あれぇ? おいテット。もしかして俺メリルちゃんに思いっきり騙されてたのか? この子凄い猫被ってた?
でもよ、物凄く上から目線で言われているのに不思議と腹が立たないのは、俺が実はホッとしているからだな。
俺はずっと誰かに、そう言って欲しかったんだ。
俺の背中を押してくれる。
誰かの後押しが欲しかったんだ。




