生み出された精霊と世界の事情
その種は、本来なら木の実から自然と落ち地上に根付く筈だったものだ。
本来精霊の誕生に地上の人間が関わる事などあり得ない。
精霊の終わりと誕生は誰にも気付かれず、ごく自然に世界の片隅で行われる。
そうやって、いつだってこの世界は正しく循環していた。
だがその日、予期せぬ事態が起きた。
その生き物は、一つの命が終わりを迎えた時、この世界に解き放たれた。
"やっと解放された。私は自由だ"
その瞬間。その生き物は憧れの空に迷う事なく飛び出した。そして空に飛び立つ彼の前で光を放ち落ちて行くそれを思わず後ろ足で掴んでしまった。
"なんて気持ちいいんだろう。どこまでも行ける。私は何者にもなれる"
彼は気が付かなかった。
そもそも彼は正しくこの世界から産まれた生き物とは言い難い存在であった。
彼の身体を構成するそれらは、彼本体のものではなく、彼が元の持ち主から奪い取ったものであった。
それに、彼はそんな事など知る術も無ければ、どうでもよかった。
彼はその時、初めての自由を謳歌していたのだ。
そして、自分の見下ろした先で美しい魂の光を放つ小さき少女がいる事に気が付いた。
彼は何だか嬉しくなり、その少女に自分が先程手に入れた輝く種を贈ることにした。
これが、カスバールを永き混沌へと導く災いの始まりである。
その種はカスバールの尊き精霊であった。
その種を手に入れた少女はそのままその種をカスバールから持ち出し、やがて自分の国の土地に植えてしまう。
その時、世界に僅かな歪みが生じた。
そしてそれと同時に自由になった筈の彼にも変化が起きた。
彼は突然、再び地上に落とされた。
そして、訳もわからないまま、この世界に粛清される。
"この世界から加護を受けぬ存在よ。お前はやってはならぬ事をした。これより先お前はその罪を償う為、その日まで消えぬ事は叶わない。世界があるべき姿を取り戻すまで、永遠にこの地にとどまり、見届けよ"
彼が彼の罪を理解できなかったのは、彼がこの世界の生き物ではなかったからだ。だか、その日。その生命は初めてこの世界の生き物としてこの地に縛られた。そして、初めて自分のした事の重大な過ちに気付く事になった。
"行くがいい。お前の名はディムレム。この地に立ち、正しくこの地を治めそして救うのだ。その日までお前の苦しみは晴れる事はない"
彼が全てを知った時はもう手遅れだった。
こうして、彼は望みもしないこの地、カスバールに縛られる事になった。
そして現在、彼はいた。
誰にもその存在を知られる事なく。
気が狂いそうな程の長い時間を苦しみの中で生きていた。
「・・・・やっと解放される」
しかしその方法を彼はまだ知らなかった。




