第99話
新選組屯所 総司の部屋-
近藤がそっとふすまを開けて、部屋を覗きこむ。
総司は、眠っている。
近藤は、そっと中へ入り、ふすまを後ろ手に閉めた。そして総司の横にゆっくりと座り、総司の顔を見た。
近藤(歳の言う通りだ…寝顔は子供の頃から、少しも変わらんな…)
近藤の顔にふと笑みがこぼれるが、やがて真顔になった。
近藤「…おまえは…本当にこれで幸せだったのかなぁ…?」
もし、試衛館に来なかったら…労咳は避けられなかったとしても、もっと穏やかな人生が遅れたのではないかと、近藤は思う。
『私は、どこまでも先生と土方さんについて行きますよ。』
京へ上がる時に、総司がにこにこと微笑みながら、そう言った事を思い出す。
近藤(あの言葉は嬉しかったなぁ…。その時は、こんなことになるなんて考えもしなかったから…)
近藤は、総司の寝顔を見ながら言った。
近藤「すまんなぁ…総司。」
総司「何がです?」
近藤は、目を閉じたままそう言う総司に驚いた。
総司が、目を開いて微笑んだ。
総司「先生…何か、私に謝らなければならないようなことをなさいましたか?」
総司はそう言いながら起き上がった。近藤は思わず、総司の背を支えた。
総司「嫌だなぁ、先生。私を病人扱いしないで下さい。」
近藤「お、おお…すまん。」
近藤は、あわてて手を引っ込めた。総司は笑いながら近藤に向き、正座に直した。
総司「私は幸せですよ。先生。…不幸だなんて思ったことなど一度だってありません。」
近藤「!…総司」
総司はくすくすと笑いながら、近藤を見ている。
近藤「…寝たふりして聞いていやがったのか。…この近藤がやられたな。」
総司は笑っている。
近藤(この笑顔も…子供の頃から変わらん…)
近藤も一緒に笑っているが、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。




