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第96話

新選組屯所 道場-


一番隊、撃剣の稽古をしている。

総司、座って新人隊士同士が稽古をしている様子を見ている。

土方が道場に入ってきた。


一番隊の全員が、土方に頭を下げた。


土方「…気にするな。続けて。」


土方はそう言い、総司の横に座った。


土方「具合はどうだ?」


総司、新人隊士達の方を見たまま、答える。


総司「いやだな、土方さん。私の顔を見るたびに同じことを聞くんだから。」

土方「…ああ…そういやそうだ。」


土方は指で額を掻いた。


土方「稽古などに出て大丈夫か?近藤さんも心配しているぞ。」

総司「大丈夫ですってば。今日は体も軽いんです。礼庵殿の薬も効いて、熱も下がっていますし。」

土方「…そうか。それならいいが…。無理するなよ。」


総司は、やっと土方に向いて「はい」と答えた。

二人はしばらく、新人隊士達の動きを黙って見つめている。

総司は、竹刀をあわせていた一人が、壁に追い詰められているのを見て止めた。


総司「そこまで。」


総司はそう言って、二人が一通りの挨拶を終えたのを見ると、自分が立ちあがる。


総司「次は、私が相手しましょう。」


総司が、勝った方の新人隊士に向かってそう言うと、道場に緊張が走る。

その空気を感じた土方は感心する。


土方(総司の腕は変わらんのだな。)


総司は、新人隊士ともに一通りの挨拶を済ませ、竹刀を構える。


総司の動きは相も変わらず鋭い。新人隊士はどんどん追い詰められていく。

土方は総司の顔を見た。

相手が新人隊士だろうと誰だろうと、変わらぬ厳しい表情で鋭く相手をつく。

手を緩めることは決してしない。にこりとも微笑むことなく相手を追い詰めていく。


土方(相変わらず、手を抜かん奴だ。)


土方は思わず苦笑した。それと同時に、総司の変わらぬ腕にほっとしてもいた。

しかし、土方には総司が無理をしているようにも見えた。

相手も、新人とはいえ総司とまともにうち合っているのをみると、なかなかの腕のようである。


しかし、やがて新人隊士は総司に打ちのめされ、最後には道場にのびた。

その隊士の体を、決まった隊士が廊下までひきずっていく。いつもの光景だ。

総司も息があがっている。が「次!」と座っている隊士達に声をかけた。

皆、一様に顔を伏せたが、その中で一人の隊士が手を上げた。

土方がそれを見て、慌てて言った。


土方「…私が相手しよう。」


総司が驚いて土方を見た。

手を上げた隊士も驚いた表情でその場に固まっている。まさか、副長の相手をすることになろうとは思ってもいなかったのだろう。

総司はその隊士の表情を見て、くすくすと笑いながら土方に手をあげた。


総司「今日はこのへんにしましょう…。彼はまだ土方さんの相手になるほどの腕はありません。」


総司が笑いながら、土方に言った。そして、一番隊に向いた。


総司「…今日は稽古を終わります。お疲れ様。」


一番隊全員が、ほっとした表情をして頭を下げた。

土方も実はほっとしていた。最近剣を取ることはほとんどないので、腕も鈍っているだろう。鈍っていなくとも、総司とまともに打ち合えば勝つ自信などない。その総司に鍛えられた若い一番隊士達にも、勝つ自信が正直なかったのである。

総司がにこにこと微笑みながら、土方の傍に来た。


土方「思っていたより元気なようだな…。安心したよ。」

総司「だから大丈夫ですってば。本当に心配性なんだから」


総司はそう答えて、部屋へ戻っていった。

土方は、それでも不安そうな表情で総司の背を見送っている。


……


総司は部屋に戻ってふすまを閉じると、その場に座り込んだ。

そして、そのまま息をはずませている。


総司(…体力が落ちている…。土方さんが止めてくれなかったら…)


総司は、しばらくそのまま息を整えていた。


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