第95話
新選組屯所 廊下-
中條はお茶と菓子を盆にのせ、総司の部屋に行こうとしていた。
このところ、総司は外へ出なくなった。
中條は体の具合が悪いのだと思い、巡察から帰るとすぐに着替えて菓子屋へ行き、前に総司と食べた葛饅頭を買った。
総司は最近食欲もない。しかし何か食べないと、また倒れるのではないかと中條は心配でたまらなかったのだ。
中條が総司の部屋についた時、中から咳込む声がした。
中條はあわてて盆を置き「先生!」とふすま越しに声をかけた。
一瞬咳が止まったが、再び咳込んだので、中條は無礼とは思いながらも、ふすまを開いた。
総司は文机の前でこちらに背を向け、咳込んでいた。
中條「…先生!…」
中條はすぐに総司の傍に行き、背をさすった。が、やがてはっと気づいて、廊下に置いた盆を取りにいった。そして、総司に茶を差し出した。
総司はすぐに茶を飲み干した。その後に何度か咳込んだが、やがて治まった。
総司「…ありがとう…。」
中條「先生…横になられたほうが…」
総司「…いや…ちょっと文を書いている途中だから…」
中條が思わず文机の上を見ると、確かに書きかけの文があった。
中條が「あっ」と口篭もって「すいません」と謝った。
総司「いや、見ても構いませんよ。…すぐに書くから、飛脚屋まで届けてもらえますか?」
中條はうれしそうに「はい」と返事をした。
総司は中條が持って来た盆の上を見て、表情を明るくした。
総司「…葛饅頭ですね…」
中條は、はっと気づいて総司の前に置いた。
中條「…最近、あまりお食べにならないので、せめてと…」
総司「ありがとう…君には本当に感謝しています。」
中條は嬉しそうな顔をして、下を向いた。
総司は筆を取ったが、ふと動きを止めた。そして中條を見た。
中條「…?…先生、どうしました。」
総司は何も言わずに再び紙に向かった。
が、やがてじっと前を見つめて言った。
総司「…私に何かあったら…想い人殿のことを頼みます。」
中條「!?…」
中條は言葉を失って、その場に固まっていた。
総司は、苦笑して首を振った。
総司「…いけないな。…何か気が弱くなっている。」
そう言って、総司は筆に墨をつけなおした。
中條は、あわてて言った。
中條「き、きっと、お疲れなんですよ。…文を書かれたら、どうか横になってください!…今、床をひいておきますから…」
中條は、すぐに押入れをあけ、床をひき始めた。
総司は黙って文を書いている。




