第91話
新選組屯所-夜
総司は、何か寝つけなかった。
床の上で何度も寝返りをうっていると、突然部屋の外に人の気配を感じた。
総司は、はっと起きあがって、刀を手に取った。
「先生!山野です…大変なことが…」
総司は、はっと刀を元のところへ戻すと、あわててふすまを開いた。
そこには、寝着ではなく身なりを整えた山野がいた。
総司「いったいどうしたのです?」
山野「坂下さんと中條さんが…」
総司「坂下君!?…」
坂下とは、中條と同じ時期に入った十番隊の隊士だが、何かと手柄を立てたがる男で、組頭の原田が頭をよく悩ませていた。その坂下と中條がいったいどうしたのか…?
山野「夜、寝つけなくて起き上がってみたら中條君がいないんです。よく夜中にこっそり抜け出したりすることもあって気にしていなかったんですが、あんまり暑かったんで中庭の方へ行ってみたら、坂下さんと中條さんが小声で言い争っていて、それも坂下さんは隊服を着ているんです。」
総司「!…」
山野「中條さんは必死に坂下さんを止めようとしていた感じだったんですが、結局坂下さんが押し殺したような声で「俺は行くぞ」って言って、出て行ってしまったんです。」
総司「…中條君は?」
だいたいのことは想像がついたが、総司は山野をうながした。
山野「はい…一瞬、迷ったように立っていましたが、すぐに坂下さんを追いかけていきました。私は思わず中條君を追いかけて「どこへ行くんだ」と聞いたんですけど…中條君は私の声にきづかないまま、走って行ってしまって…。今思えば、中條君も袴姿だったんです。刀はつけていたかは覚えていません。…不覚でした。」
総司「仕方がないことです。二人が勝手に何かをしようとしていることが、わかっただけよかった。」
山野は、はっとした表情になった。
山野「先生…中條君は勝手なことをしようとしたのではなくて…」
総司「わかっています。彼を責めたりしませんよ。」
山野は、総司の微笑みにほっとした表情をした。
総司「それよりも、二人がどこへ行ったのかをまず調べないと…すまないが、山崎さんを起こして、何か掴んでいなかったか聞いてきてください。」
山野「わかりました」と言って、部屋を出て行った。
総司(中條君は坂下君を止めようとしているのだろう…もし間に合わなければ、一緒に…)
総司は身支度をし、土方に報告に行くと、烈火の如く怒鳴りつけられた。
土方「自分の組のもんくらい押さえられんのかっ!原田も起こせ!」
総司は言われるままに、十番隊組長の原田を起こしに行った。
一番隊、十番隊がたたき起こされ、皆を準備させている所へ山野が戻ってきた。
山野「わかりました。四条の「もと屋」という料理屋です。その2階で討幕派の会合があるらしいという情報が入っていたそうです。ですが、今夜ではなかったはずだと山崎さんが…」
原田がその山野のことばを聞いて、かぶりを振った。
原田「今夜じゃなかったはずが、今夜になったんだろうよ。それを、坂下が一人でかぎつけたんだ。で、手柄を立てるために、一人で乗り込もうとしたんだろう。」
総司「しかし原田さん…あまりにも一人では無謀すぎます。…坂下君がそんな無茶をしてまで行くとは思えないんですが…」
原田「あいつならやるよ。…何しろ借金かかえてるからな。奴はとにかく金が欲しいんだ。礼金をなんとかもらいたいという魂胆だろう。」
総司「!?」
総司は、伍長に「もと屋」の場所を確認させる。
…やがて、一番隊と十番隊が隊を組んで出て行った。




