第88話
礼庵の診療所-
総司が訪れる。
みさが玄関に来た総司を見て、嬉しそうに声をあげた。
みさ「沖田のおじちゃん!」
総司は、抱きついてくるみさを抱き上げた。
総司「みさ、久しぶりだね。…ん?ちょっと重くなったかい?」
みさが「やだ」と言って、無理やり総司の腕から降りた。
礼庵が姿を現した。
礼庵「総司殿…それは、女の子には禁句ですよ。」
総司「ああ、ごめんよ。…大きくなったねっていう意味で言っただけなんだ。」
みさは恥ずかしそうに笑って、総司の両手を取る。
みさ「おじちゃん、今日遊べないの?」
総司「先生との話が終わってからならいいよ。」
みさ「うん!」
みさは総司の手を離した。
総司「いい子だ。」
総司はみさの頭をなでて、礼庵について中へ入った。
……
総司は、礼庵に促されて座った。
礼庵「想い人殿へ文をお届けしましたよ。明日は大丈夫とのことです。いつもの時間にいつもの場所で、よかったですね?」
総司は顔を赤くしてうなずいた。
が、やがて表情を曇らせる。
総司「…今夜…何もなければいいけど…」
礼庵「何もなければ…とは?」
総司「今夜は御用改めがあるんです。」
礼庵は、言葉を失った。
礼庵「…一番に入るのは誰です?」
総司「死番ですか?…中條君です。」
礼庵「…!?…」
総司「本当は他の隊士だったんですが…その隊士に子どもがもうすぐ産まれることを中條君が耳にして、代わったそうなんです。」
礼庵が、ため息をついた。
礼庵「彼らしいが…そんなことをしていたら、中條さんの命がいくつあっても足りないじゃないですか。」
総司「私も勝手なことをするなと注意したのですが…中條君は「僕に限っては大丈夫です」と笑うだけで…。でも、これからは同じことをしないように注意しました。こういうことは公平でなければならないから…。」
総司のその言葉に、礼庵がうなずいた。
礼庵「中條さんのことも気がかりですが…総司殿もお気をつけて。あなたも中條さんと同じようなことをなさることがありますからね。一番隊の長に何かあったら、隊が崩れますよ。自分を守ることをまず考えてください。…そして、想い人殿を悲しませるようなことは決してなさらないように。」
総司「…ええ。…ありがとう。」
二人はしばらく無言でいたが、総司は笑顔を作って「さぁ、みさと遊ばなくちゃ」と言って立ち上がった。
礼庵「申し訳ない。疲れるでしょうに。」
総司「いえ、みさと遊んでいると、嫌なことを忘れられるから…」
礼庵が、ほっとしたような表情で微笑んだ。




