第87話
新選組屯所の一室-
傷ついた隊士、大分傷が癒えている。
総司は、部屋へ入った。
部屋にいた中條が、総司に頭を下げる。総司、中條に「ご苦労様」と声をかけた。
総司は隊士に向いて微笑んだ。
総司「具合はどうだい?」
隊士は、起きあがろうとするが、やはり総司に止められた。
総司「まだだめだよ。私には気を遣わなくていいからね。」
隊士「…はい。ありがとうございます。」
総司「干菓子を買って来たんだ。本当はもっと甘いものをと思ったんだけど、この方が食べやすいと思ってね。今日も、あなたの大事な人が来られた時に一緒に食べるといい。」
隊士は、中條と目を合わせ、少し困った表情をした。
総司「…どうしたの?」
隊士「……」
中條「実は…昨日の、副長と先生のやりとりをお聞きになったそうなんです。」
総司「!?…」
中條「…それで沖田先生のご迷惑になるからと、完治するまで会わないでおこうと二人で決めたそうです。」
総司「…そう…。嫌な思いをさせてしまったね。」
隊士は、強く首を振った。
中條「先生…昨日来た娘さんは、あのやりとりを聞いて、とても先生に感謝しておられたそうです。」
総司「…感謝…?」
中條「はい。…本当は「新選組をやめて欲しい」と言おうとしてたんだそうです。でも、先生と副長のやりとりを聞いて、気持ちが変わったと。」
隊士「僕、沖田先生について行きます!」
総司「!…」
総司は、何かやり切れなくなって、その場を立ち去った。
中條「!?…先生!?」
中條は起きあがろうとする隊士を制して、総司を追って出ていく。
……
総司は外へ行こうとして、廊下で土方に出くわした。
土方は、腕を組み総司を見つめている。
総司は、何も言わずに通り過ぎようとした。
土方「まぁ、待て。総司。」
総司は、その土方の柔らかい口調にふと立ち止まった。
土方「昨日、娘が私の所に「迷惑をかけた」と言いに来たんだ。そして、お前を責めてくれるなともな…。」
総司は土方に背を向けたまま、目を見開した。
土方「なぁ、よく考えてみろ総司。あのまま毎日、あの娘が見舞いに来ていたら、あいつの傷はなかなかいえんだろう。治ってしまったら、また会えないのだからな。だが、会えないとなると、会うために少しでも早く傷を治そうとする。そういうものだよ。」
総司は、なにも言い返せないまま黙りこんでいる。
土方「使いようによっては女は薬になる。だが毒にもなる。…使い方を考えるんだ。」
総司「…使うなんて言い方…私は嫌です。」
総司は足早に歩き去った。土方はため息をついて、後姿を見送っている。
中條が二人の様子をじっと見ていたが、土方の所まで来て頭を下げ、そのまま総司を追って出て行った。




