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第86話

新選組屯所の一室-


総司は、意識を失っていた新人隊士が目を覚ましたと聞いて、診療部屋に駆け付けた。


隊士「先生!」


隊士が起きあがろうとしたのを、総司はあわてて止めた。


総司「動いてはだめだ。傷が開いてしまうよ。」


隊士が、小さくうなずく。


総司「…しばらくは安静にしていなきゃだめだそうだ。…誰か会いたい人はいないかい?呼んできてあげるから。」


隊士は驚いた表情をしたが、やがて頭を振った。


総司「…どうして?」

隊士「…心配をかけたくないのです。」


総司は、胸をつかれる思いがした。


その時、中條が入ってきた。中條の後ろには若い女性が立っている。

中條は総司を見て、はっとした表情をした。総司はすべてを悟り、微笑んで「入れておやり」と言った。

中條は、女性を促して中に入れた。女性は、中へ入ると、その場にひれ伏すようにして、畳に手をつき沖田に頭を下げた。


中條「今日会う約束をしていたのに来ないからと心配しておられて、屯所までお越しになったのです。」


隊士は恥ずかしさのあまり、真っ赤になっている。


総司「よく来てくれましたね。…彼はしばらくは安静が必要です。時間の許す限り、傍にいてあげてください。」


女性は、涙をためてうなずいた。


……


総司と中條が部屋を出ると、土方が立っていた。


土方「何故女など入れたんだ?…あいつをだめにするだけだぞ。」


中條は、その場にしゃがみこみ、土方に向かって手をついて言った。


中條「申し訳ありません。僕が勝手にあの人を入れたんです。沖田先生は何も…」

総司「いえ、私が入れろと言ったんです。」

中條「…先生!」


土方は眉をしかめた。


土方「なぜそんなことをした。」

総司「女は薬になるとおっしゃっていたのは、土方さんではありませんか。」

土方「使い方を誤まると毒にもなるんだ。…とにかく、今後はこういうことは許さんからな。」

総司「どうして、そんなことまで土方さんが決めるんです。」


土方は、驚いた目で総司を見つめた。


総司「一番隊のことは…僕が決めます。」


土方と総司は、しばらくにらみ合った。

総司は、ふと中條を見下ろして微笑み「さぁ、行こう。」と促した。そして、中條が立ち上がったのを見てから、土方に背を向けて歩き出した。中條も土方に頭を下げて、総司についた。


土方「…あいつにも困ったもんだ。」


土方は、総司の後姿を黙って見送った。


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