第83話
川辺-
総司がたたずんでいる。
中條が走り寄ってくる。
中條「沖田先生!」
総司は、驚いて振りかえった。
総司「中條君どうしたの?…何かありましたか?」
中條は、首を振って言った。
中條「違いますよ。お一人で出られてはいけないと、副長がおっしゃっていたではありませんか。」
総司は苦笑した。
総司「…ああ…私のことは構わないのに。」
中條「そうは行きませんよ。先生、お一人の体じゃないんですから。」
総司「たいそうだなぁ。私一人いなくなったって、新選組は変わりませんよ。」
中條「僕が言っているのは、可憐様が悲しむということです…」
総司は驚いて中條を見た。
中條「新選組にだって大切ですが…先生の身に何かあったら、一番に悲しまれるのは可憐様です。」
総司は黙ってしゃがみこみ、川を見つめた。
中條「今日もお会いにならなかったんですか?」
総司は、川を見つめたままうなずいた。
中條「ほんの少しの時間でもお会いになったらいいのに。…約束をしていなくてもいいではありませんか。可憐様は、きっとお喜びになります。」
総司「あの人にはあの人の生活がある。私のために振り回すわけにはいかないでしょう。」
中條「…先生…」
総司「土方さんは、いつか休みを下さるとおっしゃったけれど、それもいつになるか。」
中條「……」
総司「会えないから、せめて…と、文をやりとりしているけれど…よけいに心苦しくなるんです。…あの人を縛り付けているようで…」
中條は、何も答えることができずに、総司の後姿を見つめた。
総司はふと立ち上がって、中條に振りかえって微笑んだ。
総司「…もうすぐ、巡察の時間ですね。戻りましょうか。」
中條「…はい…」
中條は、何か辛い思いで総司の後をついた。




