第80話
新選組屯所 総司の部屋--
礼庵が訪ねて来る。総司、突然のことに驚く。
礼庵「診察に参りました。」
にこにことして言う礼庵に、総司苦笑する。
総司「あれから、まだ2日しか経っていないじゃありませんか。」
礼庵、何も答えずに、総司の首もとに両手を差し入れる。
礼庵「熱はありませんね。」
総司、逆らわずに黙って礼庵の診察を受ける。
…やがて診察が終わった。
礼庵「胸の音も落ちついていますよ。薬はちゃんと飲んでいますか?」
総司「はい、またあなたに怒られるといけないから(笑)」
礼庵、苦笑する。
が、やがて真顔になる。
総司「?…どうしました?」
礼庵「…九郎殿から聞きました…。私のことを頼むとおっしゃったとか…」
総司「!…」
総司、少し気まずい気になる。
礼庵「困りますよ。自分勝手に決めてもらっては(笑)」
礼庵の笑みにつられて、総司もつい苦笑いするしかなかった。
礼庵「総司殿は、もっと前向きな方だったはずです。…体力が落ちているのはわかりますが、気力まで落としては、治るものも治りませんよ。」
総司「……」
礼庵「気力さえもてば、体力も戻ってくるはずです。…その笑顔すら翳ってしまっています。…私が好きだったあなたの笑顔は、そんな風じゃなかった。」
総司「礼庵殿…」
礼庵「何よりも、想い人殿が悲しんでおられるでしょうね。あの人を守るのはあなたしかいないのですよ。」
総司「…そんなことはないでしょう。」
礼庵「ほら…またそんなことをおっしゃる・・」
総司「……」
礼庵「…想い人殿にはお会いにならないんですか?」
総司「…もう少し…体が落ちついてからと思って…あの人の前で咳込むようなことはしたくないから…」
礼庵「もう想い人殿の前で強がるのもおよしになっては?」
総司「!…」
礼庵「想い人殿だって子供じゃありません。あなたの体のことはわかっておられるし、強がっているあなたを見たいわけじゃないと思いますよ。」
総司「…しかし…」
礼庵「女性ってね、案外男性よりも強いんです。私の薬なんかよりも頼りになるはずですよ。…休みの日が決まったら教えてください。…言伝いたしますから…」
総司はしばらくとまどった表情をしていたが、やがてうなずいた。
総司「…わかりました。休みの日が決まったら、あなたに連絡します。」
礼庵、やっとほっとした表情を見せる。
総司「あなたには…いつも励まされてばかりですね。…申し訳ない・・」
礼庵「友人として当然のことです。…でも、いつか私が倒れたときは、お返ししていただきますよ(笑)」
総司、ふと驚いた目を礼庵に向けるが、やがて一緒に笑い出す。
総司「わかりました。」
総司の笑顔に潜んでいる翳りがなくなってきていることに、礼庵は嬉しさを感じた。
礼庵「(あとは、想い人殿と会えば、もっと元気になられるだろう。)」
礼庵は、そう確信していた。




