第78話
礼庵の診療所--
朝、総司が玄関にでる。礼庵とみさが見送りに立った。
礼庵「総司殿…どうぞこれからも無理なさらぬよう」
総司「ありがとう。おかげでゆっくり休ませていただきました。…みさ、今度は遊ぼうね。」
みさ、総司に頭を撫でられて、嬉しそうな顔をしうなずく。
その時、九郎が診療所へ現れる。
九郎「!…これは・・沖田ど・・っ!!?(舌を噛んだ)」
総司、思わず苦笑する。礼庵とみさ吹き出してしまう。
九郎「し、失礼した。沖田ど・の。(噛まずにすんだ)屯所までお戻りでしたら、某がお送りいたしますが。」
総司「(あわてて)いや…それには及びません。独りで帰れますよ。」
礼庵「いえ…九郎殿、送ってさし上げてください。」
総司「(困った表情)礼庵殿…!」
九郎「(妙に力が入る)承知仕った!この九郎、沖田ど・の・を、屯所まで送り申す!」
総司「(^^;)(^^;)(^^;)」
総司、断ることもできずに、礼庵に再び礼を言うと出ていく。九郎、礼庵に頭を下げ、総司の後を追う。
総司、黙って歩いている。九郎、刀に手をかけ、周囲を威圧するようにして歩いている。
九郎「(沖田殿になにかあったら、ただではすまんからな…)」
総司、その九郎の様子に気づき、苦笑しながら振りかえる。
総司「九郎殿。大丈夫ですから力を抜いてください。今からそんな風だと、いざという時に力がでませんよ。」
九郎「は、はっ!…面目ない。」
九郎、肩の力を抜いて歩き出す。総司、苦笑したまま前を向く。
二人、しばらく黙って歩いている。
やがて、総司が再び振り返る。
九郎「???どうしました?沖田どの(あ、言えた…と密かに喜ぶ)」
総司「甘いものは好きですか?」
九郎「はっ!?」
総司「ちょっと、だんごでも食べませんか?」
九郎「…はい?」
総司、にこにこと微笑みながら、前方に見える茶店へ入っていく。
九郎「え?…沖田どのっ!(あ、今度も言えた)」
九郎、あわてて総司を追って、茶店に入っていく。
茶店--
総司と九郎が、床机に並んで座っている。
総司、のんびりと茶を飲んでいる。
妙に緊張した面持ちの九郎。
だんごが来る。
総司「来ましたよ。いただきましょう。」
総司、だんごを一つ取り、おいしそうに食べ始める。
九郎、緊張しながらもだんごを取り、口に含む。
九郎「…ぶっ…ごっ!(喉に詰めた)」
総司「(のんびりと)あーあ、ゆっくり食べなきゃ…子供じゃないんだから(笑いながら茶を渡す)」
九郎「(渡された茶をあわててのみほす)・・はーーっ…」
総司、笑いながらだんごを食べる。
九郎「面目ない。…某、だんごというものをあまり食べたことがないゆえ…。」
総司「中條君から聞きました。かなりの酒豪だそうですね。」
九郎「えっ?(大笑いする)中條殿に比べたらまだまだですよ。やつと同じ飲み方をしてたら、こっちが持たない。」
総司「確かに彼の飲み方は豪快ですからね。」
九郎「沖田殿は、飲まれないのですか?」
総司「私も飲みますよ。でも、それこそ中條君ほど強くありませんが。」
九郎「だんごが食えて、酒も飲むんですか???」
総司「(笑)ええ。中條君もね。」
九郎「(@@)(@@)」
総司、目を丸くしている九郎を見て、おかしそうに笑いながら茶を口に含む。
総司「…あなたは今も礼庵殿の用心棒を?」
九郎「はっ!…はい…」
九郎の顔がとたんに赤くなる。総司、その九郎の顔を見て、くすっと笑う。
総司「あなたが用心棒をしはじめて、礼庵殿が襲われたりしましたか?」
九郎「いえ!…某がちゃんとついて歩いているゆえ、誰も近づいて来ようともしません。」
九郎が胸を張って言った。
総司「そうですか…。」
総司は微笑んだが、やがて少し表情を暗くして下を向いた。
総司「あの人は私と関わるようになってから狙われるようになった…本当は…私が守ってやらねばならないのだけれど…。」
九郎「…沖田どの…」
総司は九郎に向いて、微笑んで言った。
総司「あなたを頼りにしています。礼庵殿のこと…よろしく。」
九郎は目を見開いて総司を見た。もしかして、礼庵に対して共通の想いを持っているのではないかと、九郎は思った。
九郎「…はい!…この九郎…沖田殿の分まで、礼庵先生をお守りいたします!」
総司はにこにこと微笑みながらうなずいた。そしてふとどこかで気持ちの整理をつけている自分に気づいた。
想い人のことは中條に頼んだ。そして礼庵のことは九郎に。一番隊も、自分がいなくてもちゃんと務めを果たしている。
総司「(これで…思い残すことはなくなったな…)」
総司は、いつの間にかぼんやりとしていた。
九郎「…沖田殿、そろそろ、戻られた方が…。中條殿が心配なさっているでしょうし…」
総司ははっとして、九郎に向いた。
総司「そうですね。では、参りましょうか。」
九郎「はっ!」
二人は立ちあがった。




