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第72話

町外れの集落--


総司、礼庵、中條が揃って家を出ると、人だかりが出来ていた。三人は苦笑しながら、お互いの顔を見合わせると人だかりの中へと入った。

入ってきた時のように、冷たい視線はなかった。誰かが外で盗み聞きをしていたのだろう。


中條「…来てよかったですね。先生・・」

総司「そうだな…来た時はどうしようかと思ったけれど・・。」


もうすぐ集落を出るところで、一番後を歩いていた中條が立ち止まった。


総司「?…どうした中條君・・」

中條「…あの子は…」


総司と礼庵は中條の視線の先を見た。総司が「ああ」と言って微笑んだ。


総司「あの女の子じゃないか。」

中條「…ええ…」

総司「行ってやりなさい。先に帰ってるから。」

中條「はい!…」


中條は嬉しそうに、女の子の元へ走り出した。


礼庵「…中條さんに新しい想い人殿ができたのですか?」


総司がそれを聞いて笑った。



中條は女の子に走り寄った。

前にかざぐるまをあげた女の子だった。恥ずかしそうに両手を差し出すその少女を、中條が抱きあげた。少女が嬉しそうな声をあげて、中條にしがみついた。


中條「…君、ここの子だったんだ。」


少女は体を離してうなずいた。


中條「元気だったかい?弟さん達は?」


少女は下を指差した。男の子が二人、うらやましそうに見上げている。


中條「ああ、ごめん。後で順番に抱いてあげるからね。」


中條がそう言うと、二人とも嬉しそうな顔をした。


中條「あ、そうだ…」


中條は少女を降ろした。そして、袂から小さな巾着袋を取り出した。前に少女からもらったものだった。


中條「これ、ずっと持ち歩いているんだ。中にね、お守りを入れてある。」


少女は嬉しそうに微笑んだ。


中條「あれから、何度も君とあった場所に行くんだけど、会えないから心配してたんだよ。」

少女「忙しかったの。」


少女がやっと小さな声で答えた。


中條「家の用事でかい?」


少女がうなずいた。中條の表情が少し曇った。


中條「そうか…」


ふと、自分の子どものころを思い出す。

その時、少女の弟たちが、中條の背中をこづいた。早く抱いてくれと言っているのだろう。


中條「よおし。」


中條は両腕を開いて、二人の男の子を同時に抱きあげた。子供たちの嬉しそうな声が響く。

少女はびっくりしたように、中條を見上げている。

中條はその少女を見下ろして言った。


中條「また来てもいい?」


「いい!」


腕に抱いた二人が同時に言った。中條が笑って少女を見下ろした。


中條「…いいかい?」


少女も嬉しそうにうなずいた。


中條「そうだ…名前を聞いてなかったね。教えてくれるかい?」

少女「…さえ…」


「まさ!」

「たつ!」


腕に抱いている弟たちも次々に名乗った。


中條「お兄ちゃんは「えいじろう」だよ。」


「えいじろう!」

「えいじろう!」


中條は苦笑したが「そうだよ」と言って笑った。

そして、少女が照れくさそうに小さく言った。


少女「…えいじろう…にいさん…」


中條は何かくすぐったい気持ちがした。


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