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第70話

町はずれの集落--


総司は、中條の案内で自分に石を投げた子どもに会いにきた。中條は何度も止めたが、どうしてもその子と母親にお詫びをしたいと頼んだ。


中條「では、僕が前を歩きます。…それでもいいですか?」


石を当てられないようにとの中條の配慮だった。総司は承諾した。



集落につくと、子ども達が皆井戸の回りに集まり洗濯をしている。中には赤ん坊をしょっている子もいた。

総司は、はじめてみる光景に思わず目を背けた。

その時、子どもの独りが顔をあげ中條と総司を見ると、とたんに険しい表情になった。


「新選組やっ!また新選組が来たでーっ!」


女の子が悲鳴をあげ、男の子は一様に固めてあった石をそれぞれ手に持った。


「なにしにきたんや!」

「また、あいつを連れていくつもりやな!」


子ども達が口口に叫ぶ。

中條が「違う!」と言って近づこうとするのを総司が止め、子どもたちに言った。


総司「…すまないが、それを投げるのは帰る時にしてもらえまいか…。大事な話があるんだ。…ほら、このお兄ちゃんも私も刀を持っていないだろう?何もするつもりはないから。」


子ども達は、中條と総司の腰を見て、黙り込んだ。

刀を置いていこうと言ったのは、もちろん総司の方だった。中條は道中で何かあったらと心配だったが、子どもたちの警戒を解くのが先だという総司の言葉に従った。


総司は中條の案内にしたがって、集落の奥へと入って行った。皆、怯えた目で総司達を見ている。


中條「先生、こちらです。」


中條が、1つの家の前に立ち言った。


総司「ありがとう。外で待っていてくれるかい?」

中條「はっ」

総司「でも…子どもたちの襲撃にあったら、すぐに逃げるんだ。いいね。」

中條「(笑)大丈夫です。先生も気をつけてください。」


総司はうなずいて、外から声をかけた。


総司「…新選組の沖田総司と申します。お話があって参りました。」


中からは返事がない。しかし、よく耳を済ましてみると、弱弱しい赤ん坊の声がした。


総司「・・失礼!」


総司の心に不安がよぎり、引き戸を開いた。


最初に総司の目に飛び込んだのは、床に寝かされていた赤ん坊だった。

赤い顔をして、泣き声も弱い。

その傍には、怯えた目で総司を見る母親と、その前に立ちはだかるようにして立っている子どもの姿があった。


総司「…その赤ん坊は…病気ですか?」


二人は答えない。

中條もあわてて、総司の後ろから中の様子をうかがった。


総司「医者は呼びましたか?」


何も返事がなかった。総司は中條に振り返り「礼庵殿を」と小声で言った。

中條はうなずいて走り去って行った。


総司は中へ入った。そして、これ以上怯えさせないよう、戸を開いたままにしておいた。


総司「…坊や、私を覚えているね?」


子どもは気丈に母親をかばうようにして立っているが、足が震えていた。

それに気づいた総司は、穏やかな口調で話しかけた。


総司「…君を責めるつもりで来たんじゃない…。謝りに来たんだ。」


母親と子どもの目が見開かれた。


総司「母上殿…我々の失態のためにご主人の命を奪ってしまい、本当に申し訳なく思っております。こうして息子さんに石を当てられなければ、このまま気づかずにいたでしょう。せめてお詫びをと参りました。…謝ってもすむことではありませんが…。」


そう言ってから、総司は小さな包みを懐から取り出した。


総司「ご主人の命に比べれば少ないでしょうが、これを生活の足しにしてください。そして、これからも私に出来る限り、ご主人の代わりに援助させていただきます。」


子どもはおそるおそる包みを取り上げて、母親に渡した。

それを受け取った母親が包みを開いて驚いた。五両ものお金が入っている。

母親は目を吊り上げて、総司に向かってそのお金を投げようとしたが、ぶるぶると手を振るわせたまま動かない。

やがて、そのままその場に両手をつくようにして泣き出した。

子どもは、母親の手の中にある金色に光るものを見て固まっていた。


総司「…私にはそんなことしかできない…。許してください。」


母親はただ泣くばかりであった。

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