第69話
新撰組屯所 土方の部屋--
総司は厳しい表情で土方を見ていた。土方は、困った表情をしている。
土方「…そんなに怒ることはないだろう?」
総司「なぜ、子供を捜させたのです?」
土方「…それは…真実を知りたかったからだ。」
総司「それなら、わざわざ屯所に呼び出さなくても、話を聞くだけでいいじゃないですか!」
土方「お前は気にならないのか?その子が誰の子か…」
総司「気にならないと言えばうそになります。でも、わざわざ呼び出して問い詰めたりするつもりはありません。」
土方は、顔を少しいがめて笑った。
総司「とにかくやめさせてください。…子供には罪がないんです。」
土方「わかった、わかったよ。すぐに監察にやめるように言うよ。」
総司はほっとした表情をした。
その時、数人の足音がして、障子の外から声がした。
山崎「副長!」
土方「おお、丁度いい。入ってこい。」
山崎「それが…思わぬ邪魔が入りまして…」
総司は中條だと悟った。
障子が開いた。
総司「…中條君…」
中條が後ろ手にしばられ、山崎の隣にいた。悪びれた風でもなく、何か覚悟した様子で座っている。
土方が驚いて、山崎に尋ねた。
土方「…こいつが何をした?」
山崎「子供を見つけて連れてこようとしたら、この中條が割り入ってきましてね。副長命令だと言っているのに、連れていかせまいと邪魔をするんです。その間に子供は逃げてしまって…。」
土方「それでしばったのか」
土方が苦笑して、総司に向いた。
土方「総司、お前のさしがねか?」
総司「ええ、そうです。」
中條「違います!」
中條が土方の前に座って、懇願するように言った。
中條「私が勝手にやったのです。沖田先生からは何も…」
総司「中條君…いいんだよ。」
中條「いえ…本当に僕が勝手に…!」
総司は中條の手の縄をほどいてやった。山崎も中條も驚いた表情をしている。
総司「いいんだよ…。よくやってくれた。」
総司は中條に微笑んでいった。中條は土方の顔を見た。土方も、あごに手をあて苦笑している。
山崎「…副長…あの…」
土方「手間を取らせてすまなかった。子供のことはもういい。」
山崎「…はあ…」
土方「下がってよい。」
山崎「…はっ…」
山崎は頭を下げると、少し不服そうな顔をして立ち去っていった。
中條は、驚いた表情のまま、総司を見つめている。
総司「…子供に会ったのですね。」
中條「は…はい。」
総司「…何か言っていましたか?…」
中條「はい…」
中條は土方を少し気にした風を見せた。
土方「かまわん。言ってみろ。」
中條は、土方に向いて頭を下げてからいった。
中條「新撰組は鬼の集団だと…」
土方が少し目を見開いた。そして、総司は沈鬱な表情になった。
中條「ただ…沖田先生に石を投げたのは、別に狙ったわけじゃないようです。先頭にいたから、当てやすかったからだと…」
総司「仇というのは?」
中條「親を亡くしたそうです。どの隊だったかはわかりませんが、新撰組と討幕派が斬りあった時に、それに巻き込まれたのだと…」
土方「…巻き込まれただと?」
中條「これは、母親から聞いたのですが、新撰組と討幕派が斬りあいになったときに、たまたま通りかかった子供の父親が、間違えられて斬られたのだと言っていました。…刀も持っていなかったのに、ひどいと…。」
総司と土方は沈黙した。
総司「…その親子は…父親を亡くして苦労なさっているでしょうね…」
中條「…ええ…母親は子供を見る余裕がないようです。背中に赤ちゃんを背負っていましたし…」
総司「…ひどいことをしたな…」
中條「…先生…」
総司はふと中條の顔を見て、ふと眉を寄せた。
総司「…中條君…その顔の傷は?」
中條は、はっとして頬を押さえた。さほど目立たないが細かい傷とあざが頬や額についている。
総司「もしかして…君も石を投げられたんじゃ…?」
中條「…いえ…その…」
土方「…中條…正直に言うんだ。」
中條は、土方に睨まれて体を小さくした。
中條「…はい…何人かの子供に石を当てられました。でも…とにかく話を聞かなくちゃと思って…」
総司「…中條君…」
総司は、石を投げられながらも子供を守った中條の気持ちを思い、しばらく胸がつまって言葉が出なかった。
中條は沖田に向いて言った。
中條「でも…先生は悪い人じゃないことだけは、伝えました!…それだけは伝えたいと思ったんです」
総司は、中條に向かい両手をついて頭を下げた。
総司「…すまない…辛い思いをさせた…」
中條「先生!よしてください!…」
中條が困惑して、思わず総司の手を取り、頭を上げさせた。
中條「…僕が勝手にしただけです…」
そんな二人の姿を土方は腕を組んでじっと見ていた。
土方「(…大した奴だ…ただの大男だと思っていたが…。)」
土方は中條に感心の目を向けていた。




