第68話
新選組屯所 総司の部屋-
総司は、ぼんやりと部屋から外を眺めていた。
片目は、青じんだままである。
土方は「そんな顔で巡察に出すわけにはいかない。しばらく外へ出ないように」と言った。
総司「これじゃ…可憐殿にも会えないなぁ…」
総司は、ため息をついた。
総司は、昨日石を投げてきた子どものことを思い出していた。
みさと同じくらいの男の子だった。
総司「…新選組への恨みなのか…それとも、私だけへの恨みか…。」
路地からいきなり飛び出してきて、必死の形相で総司に石をぶつけてきた。
本人は死ぬつもりかもしれなかった。
総司は、子どもにそこまでさせた理由が気になっていた。
総司(自分はその子の親に何をしたのか…。)
突然、柔らかい声が、ふすまの外でした。
礼庵だった。総司の傷の消毒に来たのである。
総司は礼庵を招き入れた。
礼庵「…失礼します。」
礼庵は総司の顔を見て、ふと眉を寄せた。
礼庵「傷は治りかけていますが、あざが目立ってきましたね。」
総司「そう…ですか…」
礼庵「…失礼…」
礼庵は、消毒をはじめた。
礼庵「…土方さんが、あなたに石を投げた子どもを探しているそうですよ。」
総司「…え!?…」
総司は思わず礼庵の手首を取り、治療を中断させた。
総司「…どうして、また…?もしかして、その子に罰を与えるつもりじゃ…?」
礼庵「まさか…子どもに、そんなひどい事はなさらないでしょう。…ただ、このまま見過ごすわけにはいかないと…」
総司「…ばかな…!」
総司は、立ち上がろうとしたが、礼庵がそれを押さえた。
礼庵「すぐに治療が終わります。…動かないで。」
総司「こんなことをしている場合じゃないんです!…子どもが…!」
礼庵「…中條さんがもう動いていますよ。」
総司「!?…」
礼庵「とにかく、座ってもらえますか?」
総司は、渋々、座りなおした。
礼庵は治療をつづけた。
礼庵「今の話はすべて、中條さんから聞いたんですよ。」
総司「…中條君が?」
礼庵「先に監察の人が私の診療所へ来て、子どもの似顔絵を見せたんです。「誰か知らないか」と聞かれたのですが、私には見覚えがありませんでした。監察が帰った後に中條さんが来て、同じことを聞くので「その子を見つけて何をするつもりか」…と、中條さんに尋ねたんです。」
礼庵は、治療を終え、片づけ始めた。
礼庵「さ…もういいですよ。」
総司「礼庵殿…続きを…」
礼庵「監察は、その子を屯所までつれてくるようにと土方さんから言われているようです。…そして中條さんは、それをやめさせるつもりだと。」
総司「!?また、勝手なことを!…中條君は土方さんに逆らう気か…」
礼庵「それこそ、命がないかもしれませんね。」
総司「…とにかく土方さんのところへ…」
総司はそう言って立ち上がり、礼庵の横をすり抜けた。
総司「…あ…」
総司は行きかけて礼庵に振りかえった。
総司「…教えてくださってありがとう…」
礼庵は首を振った。
礼庵「子どものことは心配要らないと思いますよ。それよりも中條さんのことを。」
総司はうなずくと、土方の部屋へ向かった。




