第67話
礼庵の診療所-
突然、診療所の戸が開き、あわただしい足音がした。
礼庵は、一緒にいた婆が立ち上がろうとするのを手で制し、みさと奥のほうへ行くように言ってから、玄関へと出た。
すると、そこにいたのは、眼のあたりを押さえている総司とその体を支えている中條がいた。
礼庵「総司殿っ!」
礼庵は驚いて、総司に走りよった。
中條「石を投げられて、先生の眼に…」
中條が青い顔をして礼庵に言った。
総司「いや、眼にはあたってない…大丈夫だよ。」
総司が苦笑いをしながら言った。
礼庵「ちょっと見せて…」
礼庵はその場で総司の手をはずし、眼を見た。
確かに眼には異常がないようだが、際のところが少し切れている。
礼庵「これくらの傷なら大丈夫だと思いますが…とにかく中へ」
中條がほっとした表情をした。
礼庵「中條殿は屯所へ連絡をしてください。皆、心配して待っているでしょう。」
礼庵がそう言うと、総司もうなずいた。中條は二人に頭を下げると、走り去っていった。
診療所に入ってすぐに、礼庵は総司の眼と際にある傷を洗った。そして、あらためてじっと傷の具合を見た。
総司「…大丈夫ですよ。大したことはないでしょう」
礼庵はそれには答えず、
礼庵「結構近くからやられましたね。子供ですか?」
と、治療しながら総司に尋ねた。
総司は驚いた表情をした。その通りだったからである。
総司「なぜ、わかります?」
礼庵「傷の具合でわかりますよ。石が上から降ってきたのではなくて、下からかなりの強さで当たっている…」
総司「…その通りです。」
総司が少し表情を暗くしていった。
総司「突然、子供が走りよってきたので、どうしたのかと見たら、いきなり顔に何かが当たって…」
礼庵「その子が石を投げたのですか…。何も言わずに?」
総司「私がうずくまったのを見て「仇だ」と…」
礼庵「…仇…?」
総司「この前の斬りあいの時の犠牲者の子だったんでしょう。」
礼庵「…その子はどうしました?」
総司「逃げていきましたよ。…隊の者が捕まえようとしたけれど、止めました。…子供には罪はないから…」
一瞬の沈黙-
礼庵「…でも…あなたにも罪はない…」
総司「…そうだろうか…」
礼庵は、何も答えず黙々と治療を続けた。




