第64話
京の町中 昼七つ-
中條は九郎と約束した場所に、戻ってきた。
一旦、屯所へ戻って総司に饅頭を渡し、また戻ってきたのである。
中條は、九郎と会う事を総司に言った。
総司は「そんな時間に飲むのですか?」と一瞬眉を寄せたが、やがて「…頼みがあります」と中條に言った。
中條は、その総司の「頼み」を承諾した。
「ちゅうじょおおおおおっ」
という声がしたので、はっとそちらを見ると、九郎が走りよって来ていた。そして次の瞬間にはがしっと抱きつかれていた。
中條「!!」
九郎「本当に来てくれたんだなぁ!兄弟~っ!」
中條「きょ、兄弟?」
九郎「そうともよ。…さ、飲みに行こうぜ!時間もないことだしよ。」
中條は九郎に腕を掴まれて、すぐ傍にある居酒屋に引っ張り込まれた。
…時間の経過…
やがて2人はお互いの肩を支えながら、出て来た。
まだ暮六つの鐘もなっていないというのに、2人とも足元がおぼつかない。
九郎は上機嫌で、中條に言った。
九郎「いやぁ参ったっ!!おぬしにはぁ…参った!…一升をぺろりだもんなぁ!」
中條「私だけで飲んだんじゃないですよ。2人で一升です。」
中條もかなり酔っている風である。
九郎「あーーー…俺ぁ、嬉しいぞーっ!いい弟ができて!」
中條「勝手に決めないでください。」
九郎「なにーーーっ!?俺が兄だったら不満だとでもいうのかぁぁぁっ!?」
中條「大きな声を出さないでくださいよ!恥ずかしい…」
九郎「あはははは!すまんすまん!」
やがて2人は、人通りの少ない道まで来た。九郎の長屋が近くにあるという。中條は九郎を長屋まで送るつもりでいた。
その時、ふと2人の後に人の気配がした。一人ではない、それも何か殺気を感じる。
九郎「…おい…誰かいるか?」
九郎が振り向かないまま、中條に言った。
中條「ええ。ざっと5人ってとこでしょう。」
九郎「おめえかな?…俺かな…?」
中條「さあね。狙われるような事をしたんですか?」
九郎「もし俺だったら、道場破りの逆恨みよ。前に、道場主をたたきのめしたところだったからな。」
中條「…なかなか、やるんですね。」
九郎「…見せてやろうか?俺の腕を…。」
中條「独りで大丈夫ですか?」
九郎「さぁな。酒が入っちまってるし。おめえはどうだ?」
中條「仕方がないから、お手伝いしますよ。」
そう2人が話している間に、後から浪人風の男たちが走りよって来ていた。
2人はさっと離れると、一気に刀を抜いた。




