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第63話

京の町中-


中條が饅頭の包みを持って歩いている。

最近、総司の元気がないので、菓子屋に出向き買ってきたのだった。


中條「いつも、饅頭というのも芸がないかなぁ…でもなぁ…」


(先生はこれが一番喜ぶもんな…)と自分に言い聞かせるようにして歩いていると、礼庵が歩いているのを人ごみの中に見た。

中條は、饅頭を袂に入れると、顔を輝かせて礼庵に走り寄った。


中條「礼庵…」


先生…と続けかけたとき、突然、中條の前に刀を抜いた浪人が立ちはだかった。


「待ていっ!それ以上寄るなっ!!」


中條は、はっと刀に手をかけて構え、同時にこいくちを切った。


「刀を差したまま、礼庵に近づくとは、なにやつだっ!?」


中條「???」


その時、礼庵の「九郎殿っ!」とどなる声がした。


礼庵「この方は新選組の中條殿です。刀を納めなさい。」


九郎は「えっ」と喉の奥で音をならすと、あわてて身を引いた。


礼庵「中條さん、申し訳ない。…この人は私の用心棒なんですよ」


中條はそう言って、自分の前で手を合わせる礼庵に、あわてて言った。


中條「いえ!…いいんです。先生…。でも、いつの間に用心棒を…?」

礼庵「勝手に、この人がそう言うんですけどね。総司殿から聞きませんでしたか?」

中條「いえ…先生は何も…ああ!」


中條は急に、巡察の時に総司にからんでいた男を思い出した。


中條「あの時の浪人だったのですか。」


中條がそう言って、礼庵の後ろにいる九郎をあらためてまじまじと見た。

九郎はもう刀を納めてはいるが、何か強い視線で中條を見つめていた。


中條(…なんだか自分を見ているような感じがする…)


中條はそう思った。もしかすると、九郎も同じことを思っているのかもしれない。

礼庵が、少し声をひそめて言った。


礼庵「ちょっと、邪魔なときもあるんですけどね。」


中條は笑った。


中條「でも、よかったじゃないですか。先生も時々つけられたりすることがあるから。」

礼庵「…というより、ずっとこの人につけられてる気分なんです。」


礼庵がそう言って笑った。中條も思わず吹き出して笑った。


礼庵「では、今日は急ぐので。…また診療所の方へも来てください。」

中條「はい、お気をつけて」


中條はそう言って、礼庵に頭を下げた。

礼庵が九郎に声をかけて、歩き出した。九郎も礼庵に返事をしたが、ふと中條に近づいてきた。


九郎「…なぁ…おぬし…」

中條「は?」


九郎は、口の前で猪口を持つような手つきをした。


九郎「…これ、いけるか?」

中條「お酒ですか?…ええ、まあ。」

九郎「今夜、飲まねえか?」

中條「は?」

九郎「なんか、初めて会ったのに他人の気がしねえんだよ。…いいだろ?おめえのおごりで」

中條「いいですけど、僕、夜は出られないんです。」

九郎「じゃぁ、いつならいいんだ?」


中條は強引な人だな…と思いながらも、なぜか断れなかった。


中條「昼七つから、暮六つまでですかね」

九郎「ええ~っ!?そんなに短い時間しか飲めねえのかぁ?」

中條「普通は、そんな時間に酒なんて飲みませんよ。」

九郎「仕方がねえなぁ…。じゃぁ、その時間にまたここで!」

中條「わかりました。…あれ?先生は・・どこだろう?」

九郎「えっ!?」


九郎はあたりを見回して、遠くに礼庵の頭を見つけると、走り去って行った。


中條「…で、なんで僕のおごり?」


今になって気づく中條だった。


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