第59話
京の町中-
総司は今日も中條を連れて甘味屋へ行っていた。
男が二人して菓子を食べる姿は滑稽だろうな…と笑いながら話していると、中條が突然、真顔になって一点を見つめ、立ち止まった。
総司「…?…」
総司がその中條の視線を追ってみると、みさくらいの小さな女の子が背中に赤ん坊を背負って突っ立っており、その横には弟らしき男の子が二人、女の子の両側に立って各々に袖をつかんでいた。
そして、その子達の視線の先には、かざぐるまの屋台があった。
中條「…ちょっと…失礼します。」
中條はそう言って総司から離れ、かざぐるまを一つ買うと、その赤ん坊を背負った女の子に黙って差し出した。
女の子は、驚いた表情で中條を見上げたが、あわてて首を振った。それでもなお中條がかざぐるまを持っていると、女の子の右横にいた男の子がそれをひったくるようにしてつかみ、走り去って行った。
女の子は驚いて追いかけようとしたが、あわてて中條に振り返って頭を下げ、もう一人の男の子の手を引き、走って行った。
中條は、そのまま女の子を見送っている。
総司は中條に走り寄り、中條の背に行った。
総司「…家が貧しいのかな…あの子は、弟たちの世話をさせられているのか…。」
中條「(振りかえらずに)…そうでしょうね。」
中條は、昔の自分と今の女の子の姿とを重ね合わせているのだろう。
ぼんやりと、女の子が立ち去った後を見つめている。
総司「…さぁ、行きましょう。中條君。」
中條はうなずいて、やっと総司に振りかえり、一緒に歩き出した。
総司「…君は…里には帰らないのですか?」
中條「帰りません。」
強い語調で中條が答えた。
総司「…そう…」
それでも、里の妹や弟のことを思い出しているのだろうと総司は思った。
口減らしのために、中條が家を追い出されたことは、総司も知っている。
…総司自身、同じような境遇の持ち主である。もちろん、口減らしだとは…姉は一言も言わなかったが…。
二人は無言で歩いていた。
いつまでも、あの女の子の姿が二人の脳裏に残っていた。
総司「(彼女も同じ目に合わないといいが…)」
たぶん、中條も同じようなことを思っているのだろうと総司は思った。




