第58話
総司の部屋 朝-
総司が目を覚ますと、日の光が障子から差し込んでいた。
もちろん、近藤はいない。
総司は近藤に見守られて、安心して寝入ってしまったことを思い出し、苦笑した。
総司「…私が子どもだという土方さんに逆らえないなぁ…」
総司はそう呟いて、体を起こした。そして、のびをした。
総司「今日は…昼からが巡察だったな。ちょっと散歩でもしてこよう。」
総司はすぐに着替えを始めた。
……
総司は部屋を出て、玄関へと向かった。朝稽古の声が道場からしていた。
総司「…まだそんな時間だったのか…。」
それにしては目覚めがいいな…と思いながら、高下駄を履き外へ出た。
「沖田はん!朝ごはん、もうすぐどすえ…」
賄いの女の子が声をかけてくれた。が、総司は「部屋へおいといて」と答えて、外へ出た。
気持ちのいい朝である。本当にぐっすり眠ったらしい。こんなに気分のいいのは久しぶりだった。
総司(そう言えば、子どもの頃…近藤さんが眠れない私の傍にいてくれたことがあったな。)
総司が熱を出した時、心配そうに覗きに来てくれたこともある。また、花街の帰りに、酔っ払って入ってきたこともある。
『なぁ、総司!いつかきっと本物の武士になろうな!きっと京へ行こうな!』
よく近藤は、そんなことを言った。その時は、本当になるとは思わなかった。というより、総司自身はあまりそういうことへの欲はなかったように思う。
ただ、剣術が好きで、試衛館の仲間が好きで、ずっと一緒にいられるならいい…とだけ、子供心にそう思っていた。
そして、近藤たちが京へあがる…という決心をした時、近藤は総司に少し不安そうに尋ねた。
『どうする?総司…。一緒に行くか?』
総司は笑って「もちろんついていきます。」と答えた。近藤や土方のように、野心があったわけではない。ただ、試衛館の一人として、どこまでも近藤と土方についていきたいと思っていた。それだけだったのである。
…今でも、「それだけ」だ。野心はなかった。
しかし、近藤や土方は少しずつ、自分から離れて行ってしまっているような気がした。2人だけが新選組から突出し、いつか総司の手の届かないような地位にまで登りつめて行ってしまうような、寂しさを感じていた。
総司(それでも…近藤さんが望むなら…そうなればいいな…)
総司はぼんやりとそんなことを考えながら歩いていた。




