第53話
半月後 川辺-
中條の介抱のかいがあってか、礼庵は片足をひきずりながらだが歩けるようになっていた。中條は今日、役目を終えることになった。
毎日のように見舞いに来ていた可憐と総司が今日も来ていた。そして、礼庵と一緒に外に出ようと言った。中條は心配したが、礼庵が同意して、四人は外へ出た。
いい天気だった。
中條が礼庵の背中から腕を抱き、体を支えて歩いていた。
総司と可憐がその後ろに続く。
礼庵「いいですよ。歩けます。少し足を引きずるだけのことですから…」
礼庵がふと中條を見上げてそう言った。中條はうなずいて手を離した。
礼庵は一人で足を引きずりながら歩いた。心配げに礼庵の背中を見ている中條に総司が言った。
総司「あの人はいつも自分に厳しいのです。…そして私は、そんなあの人にいつも甘えている。」
総司がそう言うと、中條は返答に困ったような表情をした。
総司「…その通りだといいたいんでしょう?」
中條はあわてて「いいえ」と言った。総司は笑った。
可憐「礼庵先生、肩をお貸ししますわ。」
可憐が礼庵に走り寄って言った。総司と中條は当然断るものと思っていたが、
礼庵「お借りしてもいいですか?」
と礼庵が言った。
可憐「ええ、どうぞ。」
礼庵は微笑んで、可憐の肩を抱いた。可憐が礼庵を支えるように、礼庵の腰に手を回した。
可憐「もっと、力を入れてくださってよろしいんですのよ。先生。」
礼庵「大丈夫です。ありがとう。」
可憐の気づかいに、礼庵が礼を言った。
総司と中條は唖然とした。やがて中條は思わず吹き出して、総司に言った。
中條「沖田先生…礼庵先生に可憐殿を取られちゃいますよ。」
総司「仕方ありませんね。…礼庵殿は命をかけてあの人を守ったのだから…」
総司がそう言って笑った。
中條(おかしな二人だな…)
中條はそう思った。総司は礼庵が女だと言う事を知っているはずである。それなのに、どうしてお互いにそれを言おうとしないのか、中條には理解できなかった。
しかし今回のことで、わかったことが一つある。
総司と礼庵の絆は、男同士の友情とも男女の恋愛とも違う、何かそういったことを超越したものなのだと。
中條(僕も…いつか沖田先生のようになりたい。)
中條はそう思っていた。
そして総司自身も、今まで以上に礼庵を必要としていることを悟っていた。
総司(もう、この人を危険な目には合わせまい。)
その二人の気持ちを知ってか知らずか、当の本人は前を歩きながら可憐と何かはしゃでいる。
礼庵「もう止してくださいよ、可憐殿。…笑い過ぎて傷が開いてしまったらどうするんです!」
可憐「あら、先生って意外に笑い上戸ですのね。」
二人の笑い声があたりにここちよく響き渡っていた。




