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第44話

礼庵の診療所-


総司は診療所の離れで、体を横たえていた。

少しでも静かなところを…と、礼庵が貸してくれたのだった。

屯所で寝ていてもいいのだが、最近咳き込むことが多いので、土方や近藤がかわるがわる様子を見に来るのだ。

ありがたいが、ゆっくりできないのである。

この離れは、時々礼庵が医学の本を集中して読む時以外は、ほとんど使うことがないらしい。

また診療所の裏手にあるので、あまり人の声もせず、とても静かである。

総司はゆっくりと休むことができたはずだが、何故か眠れないのである。静かであればあるほど、神経が研ぎ澄まされてしまって、逆に落ち着けないような気分である。

総司はため息をついて、横にしていた体を上に向け、天井を睨んだ。


総司「…参ったなぁ…」


総司がそう呟いた時、人が近づいてくる足音がした。


総司「…?」


ふと刀に手を伸ばしたが、まさか診療所に刺客が来るとも思えない。が、用心して刀を引き寄せ、体を起こした。

すると、すっとふすまが開いた。


「!!」


ふすまを開いた相手は驚いてこちらを見ている。


総司「!…可憐殿…」

可憐「ごめんなさい!」


可憐はあわてて、その場に手をついて頭を下げた。


総司「い、いや…謝らないで下さい。驚いただけですから。」

可憐「すっかり寝ておられると思っていたので、声もかけずに…本当にごめんなさい。」

総司「構いませんよ…。ちょっと眠れなくて困っていたところです。…よかったら…中へ…」

可憐「…はい…」


可憐は少し恥ずかしそうにしながら、三つ指を突いてひざをすり中へ入った。そしてそっとふすまを閉じた。


総司「礼庵殿が呼んだのですね。」


総司のその言葉に、可憐は首を振った。


可憐「…私がずっとお願いしていたのです。今度、総司さまが来られたら、必ず呼んで欲しいって…。」

総司「そうでしたか…。」


総司は申し訳なさそうに、頭を掻いた。


総司「…ちょっといろいろありまして…落ち着いて会える時間がなかったので…」

可憐「…強引な女だとあきれてらっしゃるでしょうね…」

総司「いえ…嬉しかった…」


総司はまっすぐに可憐を見つめて言った。可憐は頬を染めた。

…二人は互いに言葉を告げず、黙り込んでいた。

が、可憐が思い切って口を開いた。


可憐「あの…どうぞ体を横になさってください。…せっかくですから…」

総司「…あの…一つお願いが…」

可憐「…はい?」


総司は顔を真っ赤にして言った。


総司「…膝をお借りできますか?」

可憐「えっ?」


可憐は思わぬ言葉に、とたんに真っ赤になった。


可憐「…私の膝を…」

総司「ああ、いや…その…すいません。気にしないで下さい。」


総司は自分の言葉を取り返したい気持ちだった。恥ずかしさに、顔が燃えるように熱かった。

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