第42話
新選組屯所-
二人は逃げた勢いで、そのまま屯所の外へと出た。
山野「ああ…びっくりした…」
中條「…変に思われたでしょうね…」
山野「…でしょうね。」
二人は苦笑した。
山野「でも、大丈夫そうでしたね。」
中條「ええ…巡察前より顔色がよかったように思いますし。」
山野「しばらく様子を見ましょう。…もっとひどくなるようだったら、その時に副長に報告しましょう。」
中條「…そうですね…」
二人はそこで、やっと屯所の外にいることに気づいた。
山野「…ちょっと、外をぶらぶらしましょうか。」
中條「はぁ…」
今になって、屯所の中へ戻る気もしなくなった二人は、そのまま町中へ向かって歩き出した。
……
京の町中-
山野と中條はどこへ行くともなく、ぶらぶらと町中を歩いていた。
お互い心の中では、総司のことを憂いている。
ただ黙って、二人は何も言わず歩いていた。
が、やがて山野が「あっ」と言って立ち止まった。
人ごみの中に誰かを見つけたらしい。中條は思わず山野の見ている方へ目を凝らした。
山野が見つけたのは、総司の想い人「可憐」であった。
二人は顔を見合わせると、どちらからともなく可憐に向かって走り出した。
「可憐様!」
足早に歩いている可憐に、二人は思わず同時に呼びかけていた。
可憐が、驚いた風に振り返った。
可憐「!…まぁ…!」
可憐は駆け寄ってくる二人を見て、表情をぱっと輝かせて立ち止まった。
そして頭を下げた。
可憐「山野様も、中條様もごぶさたをしております。」
山野達も慌てて頭を下げる。
傍を通りがかる町人達は、二人の侍が町娘に頭を下げるのを見て、不思議そうな表情で通り過ぎていく。
山野「お一人ですか?…沖田先生がご覧になったら、心配なさいますよ。」
中條「家までお送りいたします。」
急き込んで話す二人に、可憐はくすくすと笑った。
可憐「ありがとうございます。でも、いつも一人で歩いておりますの。そんな大層な身分ではありませんもの。」
中條「いえ…このまま家へお返ししては、先生に怒られます。」
中條が食い下がる。山野もその中條の言葉に同調するようにうなずいた。
可憐「でも、お武家様に送っていただくなんて申し訳ありませんわ。それも、こんな立派なお武家様に送っていただいては、家のものに怒られてしまいます。」
可憐はそう言うが、このまま可憐を一人で家に帰すわけにはいかない。
その時である。山野と中條の後ろで声がした。
「これは珍しいな。…お三人さんお揃いで。」
三人は驚いて、声のする方を向いた。
見ると、医者の礼庵がにこにことして立っている。
礼庵「珍しいですね。あとは総司殿が来られれば、文句なしなんだけどな。」
礼庵がそう言って笑った。
その言葉に、可憐は不安そうに二人に言った。
可憐「…あの…総司さまのご様子はいかがですか?…最近、お会いすることもできなくて…」
可憐の言葉に、山野と中條は困ったように顔を見合わせた。
総司はこのところ咳き込むことが多い。それを正直に言うわけにもいかなかったのである。
礼庵が不思議そうに二人を見た。




