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第40話

京の町中-


一番隊の巡察中である。いつもなら、一番後ろを歩く中條だが、今回は死番で総司の横を歩かねばならなかった。中條はこの時がいちばん苦痛であった。死番が怖いのではない。人の前を歩くことになれていないのである。


隊は途中で二手に分かれ、中條は総司の班へと入った。山野は分かれた伍長の隊の方へ行った。思わず見送る中條に山野が「気をつけて」と手を上げて去って行った。


総司「さぁ、私たちも行きますよ。中條君。」


総司が中條をうながした。中條は、はっとして「はい」と答え、総司と歩き出した。後ろから隊士達がついて歩く。

隊は路地を入っていった。新選組の管轄は狭い道が多い。この道を一列になってぞろぞろと歩くのだから、町の人間も、ある意味迷惑だったかもしれない。

路地を出る時になって、中條はいつでも抜刀できるように、鯉口に手をかけ道へと出た。そしてあたりを見渡し、先頭にいる総司に「大丈夫です。」と声をかける。総司はうなずいて道を出てきた。うしろからぞろぞろと浅葱色のだんだら一団が出てくる。


総司「今日も何もないようですね。」


総司がにっこりとして、中條に同意を求めた。中條は「はっ」と答え、頭を下げる。


総司「さぁ、戻りましょう。…伍長さんはどこまで行ったかな。」


総司はそう言いながら、出た道なりに歩き出した。戻るといっても、同じ道を戻っていかずに別の道を通る。帰り道も巡察中なのである。


『帰りなどは表情が緩むものですのに、あなただけはずっと表情が変わらなくて…。』


中條は、明日香の言葉を思い出した。


中條(表情が緩むとはどういうことだろう?)


中條はそう思い、さりげなく隊士たちの様子をうかがった。

…確かに皆、行きよりは表情が柔らかくなっている。中には談笑しているものもいた。


中條(…表情を緩めるってどうするんだろう???)


中條は真面目に考えていた。その時、総司が中條の腕を、手の甲でぽんぽんと叩いた。


中條「は、はい!」

総司「だから、固くならないで。」


総司はそう言って笑った。中條は赤くなって「はぁ」と答えた。


総司「そんな顔ばっかりしていて、顔の筋肉が疲れないかい?」

中條「いえ…そんなことは…。」


総司はくすくすと笑った。


総司「確かに、いつも気を引き締めていた方がいいですけどね。…でも、ずっと力を入れていると、いざという時にうまく動けなくなるものです。君は、肩の力を抜く練習をした方がいいですね。」

中條「肩の力ですか…」


中條は意識的に両肩を下げて見せた。が、何かおかしい。よけいに肩に力が入ってしまっている感じである。

総司が思わず手を口に当てて吹き出した。


総司「君は、常に力が入っているんじゃなくて、いかり肩だったのかな。」


そう言って笑っている。中條はつられて、思わず表情を緩めて微笑んだ。


総司「そう…その顔だよ。中條君。」


そう言われて、中條は思わず表情を戻し、頬に手を当てた。


総司「しまった…。何も言わなけりゃよかったな。」


総司はそう言って、微笑んだ。


総司「さっきの中條君の表情…。いつもそうしていたら、きっと女の子にももてると思うよ。」


中條の頭の中に、明日香の顔が浮かんだ。そしてかーっと頬を赤くした。


総司「わっ!中條君、大丈夫かい?」


その中條の変化に総司があわてた。

そして、手で中條の顔を扇いだ。


中條「先生…じゅ、巡察中はもっと気を張っていた方がいいとおもっ思います!」


中條が顔を赤くしたままそう言ったので、総司は「ごめんごめん」と笑いながら、なおも中條の顔を扇いでいた。

後ろにいる隊士達がその総司の様子に、中條の顔を覗こうと前へ集まってきた。

中條は焦って前を向き、顔を見られないように足早に歩き出した。


総司「中條君、早い!早すぎるよ!」


総司の声に中條ははたと立ち止まり、また赤い顔を隊士達に向けた。

隊士達がどっと笑った。


…平和な日が終わろうとしている…。

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