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第39話

京の町中-


二人はしばらく黙っていた。明日香は饅頭を食べ終えると、突然中條に向いて言った。


明日香「私、新選組の巡察の時…いつも、中條さんのこと見ていましたのよ。」

中條「…え…!?」

明日香「だって目立つんですもの。一番後ろに、一人大きな人が歩いているから。」


中條は体を小さくした。何か気恥ずかしい。


明日香「それに…いつも厳しい表情をして…。他の人も厳しい表情をしているけれど、帰りなどは表情が緩むものですのに、あなただけはずっと表情が変わらなくて…。この人、笑ったりすることがあるのかしら…ってずっと思っていましたの。」

中條「…そう…ですか…」


中條は以前総司に「君は笑わないな。」と言われたことを思い出した。本人は特に気づかずにいたのである。


明日香「少し日が暮れてきましたわね。…そろそろ帰らなくては。」


中條は、はっとして、その場に飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がった。


中條「家までお送りします!」


明日香がそんな中條の様子に驚いて、座ったまま見上げていた。


中條「あ…すいません…」


中條はそう言って再び座って、小さくなった。

明日香はくすくすと笑った。


明日香「では、お言葉に甘えますわ。」

中條「…はい!」


中條は嬉しそうに返事をして、今度は落ち着いて立ち上がった。


……


中條は独りで道を戻っていた。明日香を家まで送っていった後である。

二人が明日香の家に着いた時、母親が帰りの遅い娘を心配して、門まで出ていた。母親は娘の後ろを歩く大男を見て、最初いぶかしげな表情をしていたが、明日香があわてて母親に走りより、


明日香「…ほら、前にお話した人…」


と、母親に中條を紹介した。

母親はそれを聞いて表情をころりと変え、


母親「娘がご迷惑をおかけしたそうで…本当に申し訳ありませんでした。」


と、中條に深々と頭を下げた。中條は驚いて、自分も頭を大きく下げた。刀を差している人間が頭を下げたので、母親はそれに驚き、あわてて頭を上げるように言った。その横で明日香はおかしそうにくすくすと笑っている。

中でお茶でも…と言われたが、中條はさらに驚いて「お茶はもういただいたので」と下手な断り方をし、とにかく頭を下げて、照れくささをごまかすように、あわててその場を足早に立ち去った。


日がもうかなり落ちているというのに、中條はぼんやりと歩いていた。


『私、新選組の巡察の時…いつも、中條さんのこと見ていましたのよ。』


明日香のその言葉を思い出して、中條は顔が火照るのを感じた。はっとして、あわてて頬をぺしぺしと叩いて、歯を食いしばった。

…それでも、明日香の顔が脳裏から消えない。ふと自分を見上げる時の目、くすくすと笑う声…。


中條「…また…会えるかな…」


思わずそう呟いた。


……


「中條さんっ!!何してるんですかっ!早く!!」


その声に中條ははっとした。いつの間にか屯所前まで来ていたらしい。

屯所の門のところで、山野が門番と一緒になって、必死に中條に手招きしている。

中條は、あわてて門へ走り寄った。


中條「出動ですかっ!?」


そう言うと、山野は目を見開いてから、ぶっと吹き出した。


山野「何を言ってるんです。もう門限ですよ。」


その言葉と同時に、暮六つの鐘が鳴り響いた。


中條「!!」


中條は、脇から冷や汗が流れるのを感じた。


中條「…危なかった…」


そう呟いたのを聞いて、山野と門番は顔を見合わせて笑った。


山野「今ごろ何を言ってるんです。さぁ、何をしていたか、教えてもらいますよ。」

中條「えっ」

山野「はいはい、入りましょうねー。」


山野は中條の腕をひっぱって、中へと入っていった。

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