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第38話

京の町中-


中條が独りで歩いている。

山野は総司の薬を取りに、医者のところへ行っていた。

最近、総司がまた咳き込むようになったのである。土方に言われて一度医者のところへ行ったのだが、忙しさにかまけて、なかなか自分から行こうとはしなかった。それで土方に「総司はどうしても出られんからと医者に言って、薬をもらってこい。」と山野が命令され、出て行ったのだった。


中條「…先生も子どもみたいなところがあるからなぁ…」


自分のことを棚にあげて、中條はそう思った。

その時前方から、中條のよく知っている女性が歩いてきた。中條は真っ赤になって、思わず立ち止まった。


「まぁ!中條さま!」


その女性が小走りに中條のところへ走り寄ってきた。明日香である。


中條「こっこんにちは。」

明日香「お久しぶりです。…お元気でしたか?」

中條「は…はぁ…。明日香さん…も…。」

明日香「ええ。この間は本当にごめんなさい。あの時、中條さんは大丈夫っておっしゃってましたけど…本当に大丈夫だったのですか?」

中條「…え?」

明日香「…ずっと気になっていましたの…。父に聞きましたら、新選組ってとても厳しい規律があって、何かあるとすぐに切腹させられるって…。」

中條「は、はぁ…。」


よく知っているなぁ…と中條は思った。


明日香「まぁ、いやだわ。…切腹させられていたら、今お会いしていませんわね。」


明日香はそう言って笑った。この明日香のくすくすと笑う声が、中條の耳に心地よく響いた。


中條「…大丈夫です。」


中條がそう言って思わず微笑んだ。明日香はその中條の顔を見て、少し嬉しそうな表情をした。


明日香「中條さんが笑った顔…。私、初めて見たような気がしますわ。」

中條「…え…?」


中條は照れくさくて、下を向いた。真っ赤になっている。

明日香が再びくすくすと笑った。


明日香「ねぇ…お時間ありまして?…立ち話もなんですから、そこの茶店でお茶でもいただきませんこと?」


突然の明日香の誘いに、中條は驚いて目を見開いた。


……


中條は緊張の面持ちで、茶を飲んでいる。隣で明日香が美味しそうに饅頭を食べていた。


明日香「ここのお饅頭、上品な味で好きなんです。」

中條「そう…でしたか。」

明日香「どうぞ、中條さんも食べてくださいな。」

中條「は、はぁ…」


中條は皿を手にとって、しばらく饅頭を睨んでいた。

…こういう時、どう食べればいいのかわからなかったのだ。


明日香「どうしたのです?」

中條「あ、いえ…いただきます。」


中條はそう言って、むんずと饅頭を掴んで口に入れた。明日香が驚いた表情をしている。

中條はしまった…と思った。


中條(品のない男だと思っただろうな…)


そう気づいたのである。しかし、明日香はしばらくしてくすくすと笑い出した。


明日香「いい食べっぷりですわね。」

中條「すいません…」


中條は思わず謝っていた。


明日香「いいえ。どうぞ、お気楽になさってくださいね。」

中條「はぁ…」


中條は困惑して、とりあえずお茶を飲んだ。

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