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第37話

新選組屯所前-


総司はのびをして外の空気を吸い込んだ。最近は咳き込むことが少なくなってきていた。

一時、具合が悪くなったこともあったが、また最近少しずつ調子が戻ってきている。

本人はいたって呑気で、今度こそ治ったものだと思っていた。


総司が川辺に近づくと、ある大きな木の陰で、山野が身を隠しながら遠くを見ているのが見えた。

総司は、そっと後ろから山野に近づいた。


山野「!!」


振り返った山野が驚いて、声を上げそうになった。総司はあわてて「しっ」と人差し指を自分の口に当てた。


総司「どうしたのです?また怪しい人でもいるのですか?」


総司がそう険しい表情で言うと、山野は「違いますよ。」と笑った。


山野「ほら…あそこに中條さんがいるでしょう?」


そう山野が指差す先に、確かに中條の大きな背が見えた。…そして、その背に少し隠れてはいるが、女性が中條の前に立っているのが見えた。


総司「!!…あの女性は?」


総司がそう山野に小声で尋ねた。


山野「…さっき、中條君がぶつかった女性です。…わざわざ、屯所まで中條君を訪ねてこられたのです。」

総司「中條君へ抗議に来たのですか?」

山野「違いますよ。」


そう山野は笑って「その逆です」と言葉をつないた。


山野「門番をしていた人が中條さんを呼びに来たんですが、その人に聞いてみたら「謝りたい」と言ってこられたそうなんです。」

総司「へえ…。これはまた、奇特な女性ですね。」

山野「…お二人、お似合いだと思いませんか?」


総司は「ほう」と言って、あらためて女性を見た。少し気の強そうな、それでいて清楚な雰囲気のある女性である。そして美しい。

女性は中條に何度も頭を下げていた。中條はしきりに首を振っている。

やがて、女性は背を向けて去って行った。中條はじっと女性が見えなくなるまで、見送っている。


総司「…とうとう、中條君にもいい女性ひとが現れたか。」

山野「そうですね。…これでまた中條さんが明るくなるといいのですが…」


総司がうなずいた時、こちらへ歩いてきていた中條が、はたと立ち止まった。


山野「あっ、見つかった!」

総司「逃げましょう。」


総司と山野は踵を返して駆け出した。


中條「先生まで…◆○●☆■×◎□!!!!」


中條が叫びながら追いかけてきているが、いったい何を言っているのか、笑いながら逃げている二人の耳には届かない。

…夜の巡察までの、つかの間の平和な時間であった。

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