表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/100

第36話

総司の部屋-


総司は中條の話を聞いて、表情を固くしていた。


総司「…要するに、中條君は途中で追いかけるのをやめたということですね。」

中條「はい…」


中條は、その場にひれ伏すようにしたまま、答えた。

山野は不安そうな表情で総司に言った。


山野「でも中條さんはただ、女性に謝りにいっただけなんです。私も先回りしていましたし…その…」


山野もどう中條をかばってやればいいのか、困り果てている。その後の言葉が継げずにじっと下を向いて黙り込んだ。

このまま、中條をかばいきれなければ、本当に「士道不覚悟」で、切腹か斬首になってしまうかもしれない。


しんとした、気まずい間が訪れた。

が、しばらくして、総司の口から「くくく…」という声が漏れた。

山野が気づいて、はっと顔を上げた。中條も恐る恐る顔を上げた。


総司は必死に笑いを堪えていた。

山野がほっとした表情になり、中條は目を丸くして、総司を見つめている。


総司「…だめだ…私はどうも、こういうことには甘いようです。」


総司はそう言って笑った。中條は理由わけもわからず、ただ総司の顔を凝視している。


総司「そんな大きな目で見つめないで下さい。確かに土方さんに知られたら、「士道不覚悟」で腹を切らされるでしょうけどね。このことは、三人の腹の内に止めておくことにしましょう。…そのご褒美の三両も、山野さんに感謝して受け取っておきなさい。」


総司のその言葉に、中條はしばらく声を出さなかった。が、しばらくして、総司に向かって、再びひれ伏した。


中條「ありがとうございます!」

総司「私に礼を言ってどうするんですか。山野君に言わなくちゃ。」


総司がそう言って笑いながら山野を見た。山野は「そんな…」と言って、膝を退けた。

中條は、山野に向かって、またひれ伏した。


中條「山野さん、ありがとうございます!…これから山野さんのためならどんなことでもします!」

山野「やめて下さいよ…そういうの私は苦手なんです…!そういうつもりじゃなかったんですから…」


山野がおろおろしながら、中條に言った。

総司は、ただおかしそうにその二人の姿を見ている。


……


総司は山野と中條が出て行った後、畳の上にごろりと寝転んだまま、開いた障子の先にある空を見ていた。


総司(…士道不覚悟か…)


あいまいな言葉だな…と総司は思った。「規律を厳しくしなければ、隊の統率がとれない」という土方の気持ちはわかる。…だが、どんなささいなことでも「士道不覚悟」と言われれば、腹を切らされる。それで、どれだけの新人隊士達が命を落としたか…。総司自身も何度か介錯をさせられ、辛い思いをした。


総司(土方さんは優しいんだか、怖いんだか…)


そう思って苦笑した。隊士達は、厳しい土方しか知らない。だから皆恐れている。しかし、総司にとっては、優しい土方の方をよく知っている。


総司(土方さんが、怖い顔をしだしたのはいつからだろう?)


そう思案した。…つい最近からのような気もするし、もう大分前からの気もする。

試衛館時代から一緒にいた藤堂とうどうは、山南やまなみの脱走事件から完全に土方から離れていた。原田や永倉も時々、総司に不平をもらすことがあった。江戸から出てきた時にあった結束が、少しずつほどけているような気持ちがしていた。


総司「…ああ、寝られない…」


夜に巡察があるため少し仮眠をとるつもりだったが、寝られそうになかった。総司は体を起こした。


総司「…久しぶりに散歩にでるか…」


総司は立ち上がって、外套を手に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ