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第35話

京の町中-


中條は明日香という女性の後姿が見えなくなっても、ぼんやりと突っ立っていた。


「こらっ!!」


突然背中からどなられて、中條は思わず「わっ!」と声を上げた。


中條「すいません!」


中條は振り返りざま頭を下げた。考えてみれば、謝ったところで許されることではなかった。「切腹」という二文字が中條の脳裏をよぎった。


「もう中條さん、何やってたんですか。」


その気の抜けるような優しい声に、中條は思わず頭を上げた。山野がにこにことして、捕まえた主人の腕を掴んで立っている。

中條は山野が無事捕まえてくれたことにほっとした。


山野「今日のことは黙っておきます。一つ中條さんに貸しですからね。」

中條「…すいません…」

山野「さぁ、行きましょう。」


山野はうなだれている主人を連れて、屯所へと向かって行った。中條はあわててその後をついて歩いた。


実は山野は先回りをして、二人が走ってくるのを見ていたのである。その時、中條が女性にぶつかったように見えたのだった。(たぶん引き返すだろうな)と思っていると、その通り、中條は引き返していった。他の人間だったら「公務」を傘に、無視して通り過ぎ謝ることもしないだろう。

山野はそんな中條の性格が好きだった。


……


山野と中條は、近藤の部屋に呼ばれ、ねぎらいの言葉をかけられた。


近藤「非番だというのに、二人とも本当によくやった。」


中條の体から、どっと汗が噴き出した。捕まえたのは山野である。自分は何もしていないのに、こうして局長の近藤からねぎらわれることは、中條にとって拷問のようだった。

近藤の部屋に行くようにと総司から言われた時、中條は遠慮したのである。しかし、山野は「二人で見つけたのだから。」と言い、近藤の部屋へと中條をひきずるようにして行ったのだった。


二人の前に、三両ずつ置かれた。中條は一層固まってしまった。


近藤「褒美だ。助勤たちの命を救ってもらったことを考えれば少ないが…。」


何も知らぬ近藤はそう言って、にこにこと二人に微笑みかけている。


……


「よくやってくれました。私も鼻が高いです。」


総司がにこにことして、部屋へ報告へ来た山野と中條に言った。

中條は尚も顔色が悪い。総司はやっとそれに気づいた。


総司「?どうしました?中條君。…近藤先生の前に出て緊張されたのですか?」

中條「先生、実は…!」


中條が、意を決して告白しようとした時、山野があわてて中條の腕を押さえた。


中條「山野さん、僕、こういうこと黙っていられないんです…。」


山野の厳しい表情と、中條のその泣きそうな声に、総司はだいたいのことが予測できた。

だが、表情を少し固くして「何がありましたか」と尋ねてみた。


中條「先生…僕は、褒美など受け取るわけには行きません。どうか…切腹でも斬首にでもしてください!」

総司「突然そんなことを言われても、ちゃんと説明してくれなきゃ切腹か斬首か決められないじゃないですか。」


山野が驚いた表情で総司を見た。総司は山野ににこりと微笑んで見せた。

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