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第34話

京の町中-


山野と中條はある商家の主人を尾行していた。討幕浪人達に賞金を出すと言って、新選組の要人を襲わせていた人間である。

二人はたまたま、その商家の主人が路地に隠れ、浪人を厳しい口調で罵っているのを聞いたのである。

しかし、すぐには捕まえず、その主人の店をつきとめようとしているのだった。


山野「二人だと目立つから、私は別の道から先回りします。中條さんは離れて尾行してください。」

中條「わかりました。」


二人はそう囁き合うと、さりげなく別れた。前を歩いている主人は、周りを警戒することもせずに歩いている。


中條(呑気な人だな…)


そう思ったとき、その主人がいきなり走り出した。


中條「!!」


主人は気づいていたのだ。しかし、走り出すきっかけがなかったらしい。思ったより相手は足が速かった。中條も体が大きい割に足は遅くはない。が、主人との間はなかなか狭まらなかった。


その時、路地から女性が現れた。主人は足を止めることもなく、女性の真前を走りすぎた。その後を中條が走りすぎたが、後ろで女性が小さく悲鳴を上げたのが聞こえ、中條は思わず立ち止まった。


中條「!」


女性の前に花卉の束が落ちていた。そして、驚いた表情で立ち止まった中條を見ている。

中條はあわてて女性のところまで戻り、落ちていた花卉を拾いあげ、泥を払った。


中條「…すいません…」


中條はそう謝って、その女性に花卉を手渡した。

女性はふと微笑んで「大丈夫です」と言った。


女性「でも…今の人を追いかけなくてもよろしいの?」


中條はそう言われて「あっ!」と言って振り返ったが、もちろん主人の姿などない。


中條「…しまった…」


大きな男が呆然と立っている姿がおかしかったのか、女性がくすくすと笑い出した。中條ははっとして振り返り「参ったな…」と言って、困ったように頭を掻いた。

本当ならば、こんなことをしている場合ではない。だが、山野が先回りしているから大丈夫だろうという安心感があった。


女性「ごめんなさい…私のせいですわね。」


女性のその言葉に、中條はあわてて「いえ」と答えた。その中條の顔を女性は何か食い入るように見つめている。中條もどきりとして女性の顔を見ていた。


女性「…新選組の方ですよね。」

中條「…え?」


中條の目が見開かれた。そしてあわてて自分の体を見た。隊服を着ていたのかと思ったのである。それを見た女性が、再びくすくすと笑った。その声が何か中條の耳に心地よく響いた。


女性「私、明日香と申します。もし、上の方に怒られるようなことがあったら、四条の幡乃屋という帯屋まで来てください。私一緒に謝りますから…。」

中條「いえ…そんな…その…」

女性「では、ごめんください。」


中條が口ごもっている間に、明日香という女性は背を向けて歩き去って行った。

中條は何かぼんやりとその女性の後姿を見送っていた。

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