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第33話

京の町中-


山野は中條と肩を並べて歩いていた。

実は、中條は山野と肩を並べて歩くことをなかなかしなかった。

どうも中條は、今まで人の斜め後ろを歩く癖がついているようで、人の前を歩くなんてことはもっての外、肩を並べて歩くことも、なかなかできないのである。

山野自身も、人を後ろにして歩くことには慣れていない。中條に後ろを歩かれると、殺気がないにもかかわらず、何か背中がくすぐったいようなおかしな気分になるのである。しかし、中條は肩を並べていても、しばらくすると後ろに下がってしまう。足が遅いわけではない。そうする癖がついているようだ。そのため、中條に自分と肩を並べて歩かせるのにかなり苦労した。たぶん、もうしばらくすると中條はまた後ろに下がっていくだろう。

しかし、山野は中條の表情が少しずつ明るくなっていることに気づいていた。

饅頭を総司と三人で一緒に食べた日から変わってきていた。


山野(饅頭にこんな効果があるとは思っていなかった。)


山野はそう思い、くすっと笑った。

しかし、中條はさっきから、悩むような表情で隣を歩いている。


山野「中條さん、さっきの沖田先生の言葉を気にしておいでですか?」

中條「…はぁ…」

山野「大丈夫ですよ。先生は怒っていらっしゃるわけではありません。先生のおっしゃる「厳しい罰」というのを、楽しみにまとうじゃないですか。」

中條「はぁ?」


中條が情けない声を出して、山野に向かって複雑な表情を見せた。

山野はあまりにおかしくて、思わず声を出して笑ってしまった。


…………


礼庵の家にいたのは、やはり想い人「可憐」であった。

総司と可憐は二人で縁側に座り、たわいもないことを話していた。

しかし、時々話が途絶えると、何か気詰まりな雰囲気が流れた。

その雰囲気は、二人がまださほど打ち解けた関係になっていないことを表している。

茶店ではないから、お茶を頼んで間を持つこともできない。外を二人で歩けたら、景色などに話を振って間も保てるものを、今はそうもできなかった。

二人でとぎれとぎれの言葉をつむぎながら、ただ時間だけが流れていった。


…少し空の色が変わってきた頃に、礼庵が遠慮しながら二人の傍にきた。


礼庵「…山野さんたちが迎えに来られました。」

総司「そうですか…」


何か寂しいような、そしてほっとしたような複雑な気持ちで、総司は可憐を見た。

可憐も複雑な表情でうなずき、一緒に立ち上がった。

総司は可憐と玄関まで出たが、ふと困ったような表情をした。

可憐を家まで送るにはいかなかった。まだ賞金稼ぎがうろうろしているかもしれない。自分と歩いているのを見られて、可憐に危険が及ぶかも知れないと思ったのである。

その表情を読んだ礼庵が口を開いた。


礼庵「大丈夫です。可憐さんは、家の方が迎えに来ることになっていますので。」


総司はほっとした表情をした。

そして、可憐に向かって名残惜しそうに「じゃぁ…」とだけ言って、背を向け外へ出た。

今日は手を握ることもできなかった。


……


屯所への帰り道-


総司は少しゆっくりと歩いていた。

可憐に会えたことは嬉しかった。だが、何か切ないような哀しいような気持ちが残っていた。

何か寂しげなその背中に、山野と中條は自分たちのしたことが、よけいだったのではないかと後悔し始めていた。


総司「あ!そうだ!」


総司が急に声を上げて止まったので、山野と中條は驚いて歩を止めた。


総司「あなた方への厳しい罰が決まりました。」


中條はぎくりとした表情になり、山野が嬉しそうな顔になった。


山野「いったいなんでしょう?」

総司「明日の剣撃の稽古で、あなた方に私が直接稽古をつけます。」


山野と中條が息を呑んだ。しかし、二人の表情は全く違うものだった。

今度は山野の顔から血の気が引き、中條が嬉しそうに顔を輝かせている。

総司はその二人の表情を見て、思わず吹き出した。


総司「山野君がっかりしないで…また別の罰も考えておきますよ。」


総司がくすくすと笑いながらそう言うと、山野は複雑な表情で「はい」と答えた。

中條は不思議そうに、山野の顔を覗き込んでいる。


中條「山野さん、どうしたんですか?お顔の色が悪いですよ。」

山野「いや、大丈夫です。」


中條が真面目に心配しているので、山野は泣きそうな表情をしながら答えた。

総司は笑いを止めるのに苦労しながら、歩いた。

もう夕闇が迫っている。

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