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第31話

総司の部屋-


総司と山野はぽかんとして、中條が説明しながらお茶を入れているのを見ている。


中條「お茶は、沸騰したお湯を入れると渋みが強くなって、まろやかさがなくなるので、先にお湯飲みに、こうしてお湯を入れて置いておきます。するといい温かさぐらいに冷めるので…またそのお湯を、急須に戻すんです。…お湯を注いだら、葉っぱが開くまで待ちます。…そしてお茶は最後の一滴がおいしいので、一滴でも急須に残らないように、こうして最後まで入れきります…」


立て板に水を流すような中條の説明ぶりに、二人は目を見開いて見ているしかなかった。

やがて中條は、一番美味しいという最後の一滴を入れると、総司と山野にゆっくりとお茶を出した。

総司は、お茶を出されてはっとした。


総司「あ、ああ、ありがとう。いただきます。」


山野は総司が湯飲みに口をつけたのを見てから、自分も湯飲みを持ち上げた。

二人はひと口飲んでから、思わず口をそろえて「うまい!」と言った。


山野「あ…失礼しました。」


山野は口を手で押さえて、あわててお茶を置き頭を下げた。


総司「いや、気にしないで下さい。…中條君、さすがですね。こんなに丁寧にお茶を入れてもらったのは初めてです。」

山野「…私も…お茶の入れ方で、こんなに味が変わるとは思いませんでした。」


中條は少し顔を赤くして、大きな体を小さくした。

総司は饅頭をひと口食べた。


総司「こうなると、いつも食べている饅頭も美味しいですね。」

山野「はい」


山野がにこにことして総司に同意した。


総司「ほら、中條君も食べて。どうぞ。」


中條は何か黙り込んで、饅頭を凝視している。


山野「?…中條さん?」

中條「!…あ、すいません!…いただきます。」


中條は手をついて頭を下げると、恐る恐る饅頭を手に取った。

そして、ゆっくりと口に入れた。そして、味わうようにゆっくりと噛んでいる。

その中條の姿に、総司と山野は驚いたように顔を見合わせた。

中條が涙ぐんでいるように見えたのである。


総司「…どうしたの?中條君…何か入っていましたか?」

中條「…!…あ、いえ、違います。すいません。」

山野「中條さんどうしたのです?…何かあったのなら言ってください。」


中條は驚いたように目を見開いて、心配そうに見つめる総司と山野の顔を見比べた。

そして、やがてはにかむように微笑んだ。


中條「…僕…実はお饅頭をいただいたのは初めてなんです。…旅館で働いていた時、お饅頭はお客様に出す物と決まっていたので、僕のような下の者は食べさせてもらえなくて…。」


二人は驚いた表情をした。


総司「…子供の時も?…全く食べたことないのですか?」


中條は恥ずかしそうに肩をすくめて、うなずいた。


中條「お恥ずかしい話ですが…何しろ貧しかったもので…」


総司の表情が翳っていた。武士とはいえ、自分の家も決して裕福とは言えなかった。その頃のことを思い出したのである。

中條は、空気が重くなったことに気づき、あわてて頭を下げた。


中條「すいません!…せっかくの…」

総司「ああ、いや…。気にしないで下さい。…さぁ、遠慮なく食べて。」

中條「はい!」


中條は手を伸ばして、総司が勧めるまま饅頭を手に取った。

そして、またゆっくりと噛み締めるようにして食べているその姿を、総司と山野が微笑んで見つめていた。

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