第30話
京の町中-
総司、山野を連れて歩いている。
総司「すみませんね。…君にまで饅頭屋につきあわせて…」
山野「いえ。私は一向に…。」
山野は土方の命令をきっちり守っている。
しかし山野のことだから、命令されなくとも、総司についてくるに違いない。
総司はそんな山野の真面目な性格を知っているだけに、逆に申し訳なさを感じている。
総司「…そうだ…。中條君はどうしてます?…彼もよく単独行動するけれど。」
山野「私が先生の供をしている時は、外へ出ないようにと言ってあります。」
総司「…山野君も大変ですね。」
山野は照れくさそうに笑った。
山野「ただ、気になるのが…。中條さん、やっと最近笑顔を見せるようになっていたのに、あの斬首の太刀取りをした日から、また表情が固くなってしまって…」
総司の表情がふと暗くなった。
総司「…そうですか…彼にはまだ早かったのかも知れませんね。」
山野「中條さんって…自分の気持ちを押し隠す癖があるようです。」
総司「今まで、ずっとそうしてきたのでしょう。…何かしてやれるといいけれど。」
山野「…ええ…」
二人はしばらく黙って歩いていた。
やがて、総司が饅頭屋を前にして、ふと山野に振り返った。
総司「…中條君は饅頭なんて食べるかなぁ…」
山野「…は?」
総司「彼は酒を飲む方がいいのかな…。ちょっと饅頭でも食べさせてあげようか。」
山野「…は、はぁ…」
総司はにこにこと笑って、饅頭屋に入っていった。
山野は少し面食らっていたが、やがてくすりと笑って一緒に入った。
たった一人の新人隊士のために饅頭を買っていってやろうという総司の気安さが、山野には嬉しかったのである。
……
中條はいきなり総司に呼び出されて緊張していた。
総司の部屋の前で、きちんと正座をして座ると、一つ深呼吸をし、声をかけようとした。
「中條君だね。お入り。」
中からのその声に、中條は驚いて口をあけたまま一瞬固まった。
「どうしたの?入っておいで。」
中條「は、はいっ!」
中條はふすまを開いて、深々と頭を下げた。
総司「どうぞ。」
その声に頭を上げると、山野の姿があった。
中條「…先輩…あ…山野さん…?」
山野「先生が饅頭を一緒に食べましょうとのことです。」
中條「…は?」
訳のわからないような表情をする中條に、総司と山野は笑った。
総司「いいから、入ってください。他に知られると、うるさいからね。」
中條「は、はい、失礼いたします。」
中條は中へ入り、ふすまを閉じた。




