第29話
土方の部屋-
土方、部屋に篭って、俳句を練っている。
…が、なかなかいい句が浮かばない。
やがて、土方は両手を挙げて、ばたんと仰向けに寝てしまう。
「土方さん、入りますよー」
外から、気が抜けるような総司の声がし、さっと障子が開いた。
土方「!!!!!!」
思い切り、くつろいだ格好をしていた土方は、そのままで固まってしまった。
総司「あ…お取り込み中でしたか。これは失礼。」
総司はそう言って、出て行こうとした。
土方「…待て。」
総司「は?」
土方「…まぁ、入れ。」
総司「では、遠慮なく。」
元々総司には、部屋を出て行くつもりはなかった。なにかくすくすと笑いながら、障子の側へと座る。
土方「いきなり入ってくるのはよしてくれ。」
総司「だから、声をかけたじゃないですか。」
土方「普通なら、声をかけてから、しばらく待つもんだ。」
総司「ああ、じゃぁ、私は普通ではないんです。」
土方「口の減らん奴だ!」
総司はおかしくてたまらないように、必死にこらえるように笑っている。
土方「ところで、用はなんだ。私をからかいに来たのか?」
総司「はい。」
土方「なんだと?」
総司「だって、暇なんですよ。今日の巡察は夜からだし。…一人で外を出歩くなって言うから、散歩でもしたいと思っても出られないし。」
土方「山野を連れて行けばいいだろう。」
それを聞いて、総司が「あっ」と何かを思い出した。
総司「土方さんですね。…私を一人で歩かせたら、腹を切ってもらうって山野君に言ったのは。」
土方「他に誰が言うんだ、そんなこと。」
土方が腕を組んでにやにやと笑った。
総司「山野君は迷惑していますよ。気の毒に。」
土方「そうか?役目をもらって喜んでいたように思うがな。…迷惑なのは、おまえの方だろう。」
総司は不機嫌な顔で押し黙った。図星なのだ。
確かに気の毒でもある。山野とはいえ、いつも誰かを連れていれば、想い人にも会いに行くことはできない。
土方「恨むなら、賞金稼ぎの奴らを恨め。…ほとぼりが冷めたら、想い人でも想わん人でも会いに行くといい。」
総司「…いつになる頃やら。」
総司はため息をついて、心底からつまらなそうな顔をしている。土方は苦笑するしかなかった。




